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証券詐欺疑惑ゴールドマンと顧客の歪んだ関係
米証券取引委員会の訴状で明らかになった強欲ウォール街のあきれた手口
すべては顧客のために。これがウォール街に君臨するゴールドマン・サックスのモットーだ。だから米証券取引委員会(SEC)が4月16日、証券詐欺罪で同社を提訴すると、同社は当然のごとく事実無根と反論し、徹底的に争う構えを示した。
私は証券法のプロではない。だが同社弁護団が法廷で、ゴールドマンは顧客のために働いただけだという主張を軸に議論を展開するだろうことは容易に想像できる。
いつだって自己利益を追い求めているゴールドマンが、それもすべては顧客のためだとおっしゃる。確かに、同社の経営理念の第1条には「ビジネス遂行上最優先すべきは、顧客の利益である。ビジネスの成功は、顧客への貢献への結果、得られるものであり、これはわが社の発展の歴史を見ても明らかである」とある。
決算報告と共に株主に送った書簡には、私が数えたところ「顧客」という語が56回登場していた。「すべては君のため」と歌ったのはミュージシャンのブライアン・アダムスだが、ゴールドマンも「すべては顧客のため」と繰り返す。株主宛の書簡には「機関投資家を中心とする顧客のために、当社は助言者や資金の供給者、市場の作り手、資産の管理人、そして共同投資家としての役割を果たします」とある。
ゴールドマン・サックスはなぜ、政府が提供した低利の資金や政府保証の付いた債務を使って投機やヘッジを行ったのか。株主宛の書簡によれば、「当社が取るリスクや生み出す利益の大部分は、顧客のニーズないし目的を推し進める取引に由来する」そうだ。
保険最大手のAIGからクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の購入という形で損失保証を受けた(結果的にはAIG救済に投じられた税金で支払われた)理由については、こう説明している。「それは同じ取引で顧客が行う反対取引のリスクを回避するために設計された。こうすることで当社は、顧客が具体的な投資スタンスを示すのを助ける上で仲介者の役割を果たした」
顧客とカモは紙一重
門外漢には理解し難い文面だが、要するにゴールドマンとて所詮は顧客の操り人形にすぎないと言いたいらしい。
とはいえ、顧客とカモは紙一重なのがウォール街の常。同社とて、常に顧客の利益を最優先してきたわけではなさそうだ。サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)関連商品の危険に気付いてからも同社が顧客に売り続けていた、との指摘もある。
また英紙フィナンシャル・タイムズは16日付の記事で、ゴールドマンの運営する18億謖規模の不動産ファンドの価値が05年以降、98%も下落したと報じている。ゴールドマンも自己勘定で投資していたから大損をしたが、顧客に損をさせる一方で何千万謖もの手数料を稼いでいたのも事実だ。
16日付のSECの訴状は、同社が一部の顧客を明らかにえこひいきしていたことを指摘している。
SECによれば、同社は有力顧客であるヘッジファンド「ポールソン・アンド・カンパニー」の強い要請を受けて債務担保証券(CDO)を組成し、それを細分化して他の顧客に売っていた。
ポールソンがゴールドマンにCDOを組ませたのは、空売りするためだったらしい。同社はこのCDOに含まれるローンが高い確率で焦げ付き、その大部分の価値が失われると予想していた。
分かりやすく言えば、開発業者(ポールソン)が建設会社(ゴールドマン)に分譲マンションの建設を委託し、一方でそれが倒壊した場合の損失を保証する保険を買っていたに等しい。
「欠陥住宅」と知りながら
それだけではない。彼らの計画はさらに手の込んだものだった疑いがある。SECによれば、ゴールドマンはポールソンおよび「ポートフォリオ選定代理業者」のACAマネジメントと組んで、故意に欠陥だらけで標準以下の「建築資材」を使ってマンション(CDO)を建てていたらしい。
SECは、ACAがゴールドマンの監督の下、ポールソンが選定した担保証券をCDOに組み込んだ証拠をつかんでいる。そしてゴールドマンは、このマンション(CDO)の欠陥や危険性を説明せずに一般の顧客に「分譲」していたという。
狙いは当たった。ゴールドマンは欠陥CDOの組成・販売手数料で大儲けし、有力顧客のポールソンもその空売りで大成功を収めた。一方で、その他の不運な顧客(細分化されたCDOを購入した複数の銀行)は大損した。
ゴールドマン会長のロイド・ブランクファインに言わせると、投資銀行はひたすら顧客に奉仕するのが役目であり、後は「神の御業」に従うのみだという。名言だが、補足が必要だ。その神の名は「強欲」である、と。
(Slate.com特約)
[2010年4月28日号掲載]