ウォール街が狙うデリバティブ復権
政府も旧金融秩序の味方
オバマ政権やFRB(連邦準備理事会)、多くの議員も支持している危機再発防止策は、「システミックリスク監督当局」の新設だ。だが、世界中で外からは見えにくい店頭取引が復活したとき、現場の取引のすさまじい勢いと複雑さについていけるのだろうか。そんなことが可能だと考えるのは、経験を無視した希望的観測というものだろう。
一方、ニューヨーク連邦準備銀行はウォール街の幹部や既存の規制当局者と会合を重ねている。4月1日には、取引の追跡がはるかに容易になる取引情報の「倉庫」と中央清算機関をつくることで合意した。だが彼らも、全取引を公開の取引所で行わせるといった抜本的な改革には抵抗している。
ウォール街の幹部たちは、取引所と清算機関の間に違いはほとんどないと主張する。どちらも規制されていて、業界が運営する。
いや違いは大ありだと、オバマ政権の改革案に批判的な米商品先物取引委員会(CFTC)の元高官マイケル・グリーンバーガーは言う。取引所での取引では不正や市場操作を取り締まる権限が政府にあり、必要なら取引を停止させることもできる。公開された取引所には、非公開で運営される清算機関にはない取引の透明性もある。
民主党の上院議員たちは2月上旬にオバマに面会を申し込んだが、なかなか実現しなかった。面会が実現したのは、オバマがCFTCの委員長に指名したゲーリー・ゲンスラー元財務次官の承認にサンダース上院議員が待ったを掛けた後だ。サンダースは、ゲンスラーは財務省でウォール街の利益のために働いた期間が長い人物だと語った。「歴史的なこの時期、金融市場には新しい文化をつくり出せる独立した指導者が必要だ」と、彼は言う。
だが、実際に猛烈な勢いで復活しつつあるのは、古い文化のほうだ。そのすべてが、金融危機とその原因について誰より予知能力を発揮した専門家たちの助言に逆行している。現在、金融規制をめぐる議論を主導しているのはウォール街のインサイダーたち。それとは対照的にアウトサイダーの立場にあるのがこうした専門家たちだ。
元トレーダーでニューヨーク大学教授(リスク工学)のナシーム・ニコラス・タレブもその1人。市場でまれに起こる大変動のメカニズムを解説した『ブラックスワン(黒い白鳥=予期せぬ出来事)』の著書もある彼は最近、英紙フィナンシャル・タイムズで根本的な改革の必要性を説いた。
タレブによれば、金融機関が大きくなり過ぎてまたつぶせなくなることを阻止するだけでなく、複雑なデリバティブも禁じなければならない。「なぜなら、それは誰にも理解できないし、理解できていないことを自覚する者さえほとんどいないからだ」
今まさにその後始末に追われているというのに、また同じ世界をつくろうというのだろうか。
[2009年4月22日号掲載]