最新記事

革命を導いたネットの自由戦士

中東革命の軌跡

民衆が次々と蜂起する
中東の地殻変動を読み解く

2011.05.17

ニューストピックス

革命を導いたネットの自由戦士

昼はグーグルの地域幹部として働き夜はネットを駆使して革命を後押しした男の正体

2011年5月17日(火)20時03分
マイク・ジリオ

 不吉な電話が入ったのは米東部時間の1月27日、夜遅くだった。エジプトの首都カイロに住む友人の声だった。「奴らに尾行されている。この電話機はすぐに壊す」

 そして電話は途絶えた。

 程なくしてエジプト全土の携帯電話が、続いてインターネットが使えなくなった。何としてでも反体制デモを封じ込めたい当局が、奥の手を使って通信を遮断したからだ。

 電話の主は消えた。わずかに残された痕跡はツイッター上の悲痛なつぶやきのみ。「エジプトのために祈ろう」

 3日後。アメリカの首都ワシントンでは亡命エジプト人女性のナディヌ・ワハブがパソコンの画面を見詰めていた。あの電話の主が消息を絶ったなんて、そんな噂は嘘であってほしいと念じながら。

 突然、パソコン画面に彼のユーザーネームが現れた。

「アドミン1が行方不明だ。こちらはアドミン2」

 この「アドミン1(アドミンは管理人の意味)」こそ電話の主。カイロの反政府デモで重要な役割を果たしたフェースブックのファンページを管理する匿名の人物だ。

 彼はワハブに、もしものときの対応を事前に指示していた。自分が姿を消したら、最初のデモから2週間後の2月8日まで待って、その後に自分の名前と正体を公表してほしい、と。

 言われたとおりに彼女はネット上で平静を装い、沈黙を貫いた。「アドミン2」については何も知らされていなかったから、そのメッセージ自体が罠である可能性も否定できなかった。

 エジプト社会に激震をもたらしたネットの動員力。その核にいた「アドミン1」こそ30歳のワエル・ゴニム。表の顔はネット検索最大手グーグルの地域幹部だ。

 本誌は、ゴニムとワハブの数カ月にわたるオンライン交信記録の一部を入手した。その後の電話取材なども踏まえ、ここではゴニムの人物とその変身のプロセスを再現してみる。

 カイロ・アメリカン大学でマーケティングと金融の修士号を取得したゴニムは、08年にグーグルに入社。その後1年余りで中東・北アフリカ担当のマーケティング責任者に昇進し、家族と共に仕事の拠点であるドバイに移り住んでいた。

マーケティングの達人

 ワハブとネット上で出会ったのは昨年の春のこと。フェースブック上でモハメド・エルバラダイ(前国際原子力機関〔IAEA〕事務局長でノーベル平和賞受賞者)のファンページを立ち上げたゴニムに、ワハブが協力を申し出たのだ。既にウェブ上で複数のベンチャー事業を成功させ、技術的な知識も経験も豊富なゴニムだが、彼をエジプトで最も有名なサイバー活動家に押し上げたのはそのマーケティング手腕だった。

 民主的な改革を求めるエルバラダイのファンページは、ゴニムの指揮下で急速にファンを増やしていった。ゴニムは登録者の意見を集約し、ネット上でみんなが参加できるビデオ討論会などを次々と企画した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中