最新記事

フェースブックを生んだ社会不適合世代の物語

フェースブック
過去か未来か

打倒グーグルの最有力候補は
会員5億人の「お友達帝国」

2010.12.17

ニューストピックス

フェースブックを生んだ社会不適合世代の物語

巨大SNS誕生に潜む人間模様を描いた『ソーシャル・ネットワーク』は好感度ゼロの主人公から目が離せない

2010年12月17日(金)14時28分
デーナ・スティーブンス

つながれない人々 フェースブックが急成長する過程でザッカーバーグ(右から2番目)は親友サベリン(左端)と決別する(1月15日公開) Merrick Mortonc 2010 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All Rights Reserved.

 世界最大のSNS、フェースブック誕生の舞台裏を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』が秋に全米公開されると、怖いもの見たさと誇大広告の相乗効果で大ヒットを記録し、さまざまな議論を巻き起こしている。この作品は今年のベストムービーに値するのか、それとも単によく出来た映画の1つにすぎないのか。フェースブックの創設者マーク・ザッカーバーグ個人にフォーカスした伝記映画なのか、それとも若者世代全般の素顔を浮き彫りにした群像劇なのか──。

 私が驚いたのは、大きくて賢明で野心的で共感にあふれる映画を、人々がこんなにも求めていたということ。そして、観客を馬鹿にし、内容が伴わないまま宣伝ばかりに熱心な映画業界に、私たちが心底うんざりしているということだ。実際、私は時々、ハリウッドのお偉方全員にメールしたい衝動に駆られる。車が爆発するだけの映像を垂れ流しにしながら、オスカーが欲しいと訴えるのはやめてくれ。伝えたいメッセージのある聡明な人々にいくらかのカネを渡して、映画を作らせてやってくれ、と。

往年の名作『市民ケーン』との共通点

 その点、『ソーシャル・ネットワーク』はスクリーンに集中し、驚いたり、考えさせられたり、面白がったりできる作品だ。ブロガーの間でこの映画をオーソン・ウェルズ監督の『市民ケーン』になぞらえる声があるが、それはさすがに褒めすぎだろう。それでも、デービッド・フィンチャー監督の8作目がテーマ的にも構造的にもウェルズの名作の影響を受けているのは明らかだ。
 
 どちらの作品も若くて有能で傲慢な実業家が孤立していく様を描いており、3〜4つの時系列が複雑に絡み合う。社会風刺と風俗喜劇、ギリシャ悲劇を同時に実現しようとした『ソーシャル・ネットワーク』には欲張りすぎて無理が生じた部分もあるが、そんなシーンでさえ魅力的にみえる。

 原作は、ハーバード大学の嫌われ者学生だったザッカーバーグが、世界的に有名な嫌われ者実業家にのし上がる過程を追ったベン・メズリックの暴露本だ。ただし、アーロン・ソーキンの軽快でウイットに富んだ脚本は、原作をかなりアレンジしている。

 原作は、ザッカーバーグの同級生でフェースブックの初代CFOを務めたエドゥアルド・サベリン(アンドルー・ガーフィールド)の告白を軸に展開する。サベリンはフェースブックがグローバル展開に乗り出す際に、わずかな分け前を渡されて会社を追われた。

 一方、ソーキンの脚本で軸になるのはザッカーバーグ。高い地位を得ることに取り着かれ、引きこもりがちで面白みのない嫌われ者を、ジェシー・アイゼンバーグが好演している。

 主人公を好感度ゼロに描く手法は非常に大胆な作戦だ。ザッカーバーグには、アンチヒーローとしての魅力すらない。彼は映画の中心でうごめくブラックホールのような存在で、それなのに観客はなぜか、このオタクを嫌いになれない。人間として愛することはできないが、映画の登場人物としては気になる存在なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中