最新記事
フェースブック
過去か未来か
打倒グーグルの最有力候補は
会員5億人の「お友達帝国」
フェースブックを生んだ社会不適合世代の物語
巨大SNS誕生に潜む人間模様を描いた『ソーシャル・ネットワーク』は好感度ゼロの主人公から目が離せない
つながれない人々 フェースブックが急成長する過程でザッカーバーグ(右から2番目)は親友サベリン(左端)と決別する(1月15日公開) Merrick Mortonc 2010 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All Rights Reserved.
世界最大のSNS、フェースブック誕生の舞台裏を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』が秋に全米公開されると、怖いもの見たさと誇大広告の相乗効果で大ヒットを記録し、さまざまな議論を巻き起こしている。この作品は今年のベストムービーに値するのか、それとも単によく出来た映画の1つにすぎないのか。フェースブックの創設者マーク・ザッカーバーグ個人にフォーカスした伝記映画なのか、それとも若者世代全般の素顔を浮き彫りにした群像劇なのか──。
私が驚いたのは、大きくて賢明で野心的で共感にあふれる映画を、人々がこんなにも求めていたということ。そして、観客を馬鹿にし、内容が伴わないまま宣伝ばかりに熱心な映画業界に、私たちが心底うんざりしているということだ。実際、私は時々、ハリウッドのお偉方全員にメールしたい衝動に駆られる。車が爆発するだけの映像を垂れ流しにしながら、オスカーが欲しいと訴えるのはやめてくれ。伝えたいメッセージのある聡明な人々にいくらかのカネを渡して、映画を作らせてやってくれ、と。
往年の名作『市民ケーン』との共通点
その点、『ソーシャル・ネットワーク』はスクリーンに集中し、驚いたり、考えさせられたり、面白がったりできる作品だ。ブロガーの間でこの映画をオーソン・ウェルズ監督の『市民ケーン』になぞらえる声があるが、それはさすがに褒めすぎだろう。それでも、デービッド・フィンチャー監督の8作目がテーマ的にも構造的にもウェルズの名作の影響を受けているのは明らかだ。
どちらの作品も若くて有能で傲慢な実業家が孤立していく様を描いており、3〜4つの時系列が複雑に絡み合う。社会風刺と風俗喜劇、ギリシャ悲劇を同時に実現しようとした『ソーシャル・ネットワーク』には欲張りすぎて無理が生じた部分もあるが、そんなシーンでさえ魅力的にみえる。
原作は、ハーバード大学の嫌われ者学生だったザッカーバーグが、世界的に有名な嫌われ者実業家にのし上がる過程を追ったベン・メズリックの暴露本だ。ただし、アーロン・ソーキンの軽快でウイットに富んだ脚本は、原作をかなりアレンジしている。
原作は、ザッカーバーグの同級生でフェースブックの初代CFOを務めたエドゥアルド・サベリン(アンドルー・ガーフィールド)の告白を軸に展開する。サベリンはフェースブックがグローバル展開に乗り出す際に、わずかな分け前を渡されて会社を追われた。
一方、ソーキンの脚本で軸になるのはザッカーバーグ。高い地位を得ることに取り着かれ、引きこもりがちで面白みのない嫌われ者を、ジェシー・アイゼンバーグが好演している。
主人公を好感度ゼロに描く手法は非常に大胆な作戦だ。ザッカーバーグには、アンチヒーローとしての魅力すらない。彼は映画の中心でうごめくブラックホールのような存在で、それなのに観客はなぜか、このオタクを嫌いになれない。人間として愛することはできないが、映画の登場人物としては気になる存在なのだ。