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新・超大国と世界の新しい関係
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愛国世論というモンスター
共産党の指導部が右傾化する国民に怯えて情報を隠し続ければ、大きな代償を払う羽目に
日本と中国の対立はひとまず落ち着いたように見える。日本は先月末、逮捕していた中国漁船の船長を処分保留で釈放した。日中間では、双方が領有権を主張する東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の周辺で起きた漁船衝突事件で日本が中国人船長を逮捕して以来、緊張が高まっていた。
船長釈放を受けて中国の国営メディアは、日本が屈服したと大々的に報じた。しかし中国が勝者だとはとうてい言い切れない。
尖閣問題に関する反日デモを抑え込むために中国政府が細心の注意を払ったことで、中国の政治システムの欠陥が浮き彫りになった。中国共産党指導部は、内政と外交の目的を達する上で国内の世論を味方に付けられずにいる。最近、中国指導部は世論を導くどころか、世論に押されて不本意な立場を取らされ、政策の選択肢を狭められている。
1931年の満州事変の発端となった柳条湖事件の79周年に当たる9月18日、尖閣問題で日本に抗議するために北京や上海、深センなどの都市でデモが行われると、当局はデモ参加者の4倍以上の数の警官隊を動員して厳戒態勢で臨んだ。デモは1時間ほどで解散させられた。
それに先立つ12日には、ナショナリストの団体が船をチャーターして福建省から尖閣諸島を目指そうとしたのを当局が阻止。その10日後に香港の団体が同様の行動を取ろうとした際も、香港当局によって妨げられた。
中国政府がこれほどまでに抗議活動を警戒する理由の1つは、過去の経験上、この種の活動の矛先が外交だけでなく国内問題、とりわけ党と政府の腐敗に向けられるケースが多いと分かっているからだ。実際、香港の人権擁護団体「中国人権守護者」によると、有力な人権活動家の許志永(シュイ・チーヨン)と滕彪(トン・ピャオ)を含む少なくとも9人の活動家が身柄を拘束されたり、集会に参加しないよう警告されたりした。
しかし、共産党指導部が過敏なまでに神経をとがらせている最大の理由はほかにある。それは、領有権問題に関して実質的に何も行動してこなかったと非難されることへの恐れだ。尖閣諸島をめぐる日中の対立は、72年に沖縄がアメリカから日本に返還されたときにさかのぼるが、中国政府は自国領だと主張する以外にほとんど行動を起こしてこなかった。
尖閣棚上げ案もあったが
この状況は、今後も変わりそうにない。中国が海軍の整備を急速に進めているとはいえ、軍事的解決に乗り出すのは論外にみえる。問題の島々は、日米安保条約の適用対象であり、この点は先頃ヒラリー・クリントン米国務長官もあらためて確認している。
軍事行動より現実的なのは、当時の中国の最高指導者、トウ小平が打ち出した方針だ。78年に日本を訪れた際、トウは尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、天然資源の共同開発を進めることを提案した。
もっとも、この方針は日本が島々を実効支配している現状を追認するものと解釈できるため、中国の国内で大々的に報じられることは決してなかった。学校の教科書にも記されていない。
なぜ、中国政府はそこまで自国の国民を恐れるのか。
中国政府が国民に情報を与えずにいわば「ブラックボックス外交」を展開してきたのは、中国共産党の非民主的な性格というだけでなく、アメリカや日本などの外国に対して弱腰だと非難されることを避けるためでもある。