最新記事

原油で酸欠海域「デッドゾーン」拡大か

BP原油流出

史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓

2010.07.16

ニューストピックス

原油で酸欠海域「デッドゾーン」拡大か

汚染でバランスを崩した海の生態系が「共食い」に追い込まれるとき

2010年7月16日(金)12時01分
ダン・ミッチェル

死の海 原油の海から何とか這い上がろうとするカニ(6月20日、ルイジアナ州沿岸で) Sean Gardner-Reuters

 原油流出事故が起こる前から、科学者たちはメキシコ湾の「デッドゾーン」が今年は過去最大級になると予測していた。今問われているのは、メキシコ湾沖で起きた原油流出事故のせいでそれがさらに拡大するのかどうかだ。

 デッドゾーンは夏に生まれて成長する。原因の1つは、中西部の農業地帯から出る肥料分を含んだ農業排水だ。ミシシッピ川からメキシコ湾に流れ込むこの排水は藻を異常繁殖させる。この藻が死んでバクテリアが分解するとき、海水中の酸素を大量に消費してしまう。海の中の広大な一帯が、酸欠のため海の生き物が死滅する酸欠海域「デッドゾーン」になってしまうのだ。汚染のために食物連鎖がちぐはぐになり、生態系のある部分が他の部分を攻撃しているようなものだ。

 原油流出はこれまでの被害に加え、デッドゾーンをも広げてしまうのだろうか。可能性はある、と科学者たちは言う。原油を分解するときは、藻を分解するときと同じく酸素が消費されるからだ。だが一方で、原油はむしろデッドゾーンを小さくする可能性があるという科学者もいる。原油による汚染で、藻の繁殖が抑えられるからだ。

 非営利の調査報道機関プロパブリカは、「驚愕すべき量」のメタンガスを問題にする。天然ガスの主成分であるメタンガスは、事故を起こした英石油メジャーBPの海底油田から噴き出す物質の大きな割合、おそらくは70%程度を占めている。そして困ったことにメタンガスは、酸素を食べるバクテリアの成長促進剤なのだ。

 BPは、油田から漏れるメタンガスの大半は燃やしてしまっているので大丈夫だという。だが、BPは今までいつも「大丈夫」と言ってきたのだ。

The Big Money.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用

ビジネス

米電力業界、次期政権にインフレ抑制法の税制優遇策存

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中