最新記事

暴落BP株は今が買い時か

BP原油流出

史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓

2010.07.16

ニューストピックス

暴落BP株は今が買い時か

株価の15%下落などまだ甘い。流出が止まらなければ、BPが他社に買い叩かれるのは時間の問題だ

2010年7月16日(金)12時06分
マシュー・フィリップス

 英石油メジャー、BPの株は今が買い時らしい。少なくとも、BPの株価予想を生業にしているアナリストたちはそう見ている。

 先週、金融情報サービスのブルームバーグが17人のアナリストにBP株の投資評価を聞いたところ、12人は「バイ(買い)」だった。残り5人は「ホールド(中立)」で「セル(売り)」は1人もいなかった。もちろんアナリストは滅多にセルの評価は出さないし、ホールドは事実上セルと同じだ。

 それにしても、本当にこれでいいのだろうか。BP株は2日前に15%暴落し、時価総額にして300億ドルが吹き飛んだばかりだというのに、売却を推奨るアナリストが1人もいないなんて。

 もっとも、危機のときこそ株を買えというのは昔ながらの投資戦略。BPが起こしたメキシコ湾での原油流出事故のような惨事には、人々は総じて過剰に反応する。震え上がった人々は、事故に少しでも関係しそうな企業の株を一斉に売り始める。そこへ情報通の投資家が腕まくりをして突進し、安くなった株を買いあさる、という寸法だ。

 今がまさにその時だ。原油流出事故が発生した4月20日以降、BP株は40%近く暴落し、時価総額にして1830億ドルから約1150億ドルに急減した。情報通と言われる投資家たちは、この株価下落が一時的なものに過ぎないと考えている。世間が正気を取り戻し、1日約1万9000バレルの原油流出が企業を破滅させるほどの大惨事のわけはないと気づけば株価は回復する、という見方に賭けているのだ。

BP株がまだそこそこ高い理由

 フィラデルフィアのTCPグローバル・インベストメント・マネジメントのマネジング・ディレクターで、ブルームバーグが調査したアナリストの1人でもあるジェラルド・E・スネリウスは、38ドルとうBPの株価は「最悪の惨事に対応する水準であり、最悪の惨事より少しでもいい材料が出てくれば株価は上がる」と言う。

 もちろん、最悪の惨事より少しでもマシな材料があるなら願ってもないことだ。BPの株主にとってだけではない。ペリカンや漁師、そして人類すべてにとってもうれしい知らせだ。

 だが、疑問も沸く。もし今の株価が最悪の惨事の値段だとしたら、38ドルは高すぎないか? なぜ0ドルではないのだろう?

 これは、最悪の惨事をどう定義するかによる。BPは原油の除去作業にすでに約10億ドルを注ぎ込んだ。早く「自分の生活を取り戻したい」という失言で名を馳せたBPのトニー・ヘイワード最高経営責任者(CEO)は、作業にかかる最終的なコストは約30億ドルにもなり得ると語った

 だがこの見積もりも、安過ぎると嘲笑されてしまった。「ウォール街はこの見積もりを信じていないと断言できる」とニューオーリンズを拠点とする原油アナリストのブレーク・フェルナンデスは言う。本当のコストはおそらく100億〜300億ドルの域だろう。

 BPの財務悪化について様々な憶測が飛び交うなか、世間の関心はもはやこの石油大手が買収されるか否かを通り越して、「いつ」買収されるかに変わったようだ

 では、BPの実際の財政状況はどうなのか。まず良い点から挙げてみよう。BPは莫大な利益を生み出し、今も莫大なキャッシュを握っているということ。BPは今年1〜3月期だけで60億ドルと、前年同期の2倍以上の利益を上げた。フリーキャッシュフローは70億ドルに上る。

 フェルナンデスによると、原油価格が1バレル=60ドルを超える水準に留まるかぎり、BPがキャッシュを使い果たすことはない。先月の原油価格は1バレル=70ドル前後だったから、今のところは安泰に見える。

 BP株が今も魅力的な最大の理由は、この潤沢なキャッシュを原資として9%という好配当(会社にとっては年間100億ドルの支出)を払っているから。もっとも、民主党上院議員のチャールズ・シューマーとロン・ワイデンは今、配当支払いを延期するよう求めているが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議

ワールド

米、中国軍事演習を批判 台湾海峡の一方的な現状変更
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中