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南ア、虹色の未来へ
アパルトヘイト撤廃から16年
驚異の成長、多人種社会の光と闇
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ラグビーに託した融和の夢
歴史を変えたマンデラの「あの日」を描いた映画『インビクタス』が教えるもの
南アの国民にとってスポーツは崇拝すべき大切なもの。アパルトヘイトを非難する国際社会から受けた制裁措置のなかでも、白人社会が一番こたえたのはスポーツの国際大会からの締め出しだろう。
黒人との協調路線を進めていたF・W・デクラーク大統領は92年、国民投票を実施して白人に支持を求めた。南アで記者をしていた私は、投票所で聞いたある白人男性の言葉を鮮明に覚えている。「私は賛成票を投じるつもりだ。ラグビーの国際大会でまたプレーしてほしいからね」
彼だけではない。国民投票の結果、68・7%がアパルトヘイト撤廃を支持した。多くの白人はその理由を、国際大会からの締め出しが終わってほしいからだと公然と語った。
マンデラはその心情をよく理解していた。同時に、ようやく国際大会に復帰したときの白人たちの落胆ぶりにも気が付いていた。対戦相手を失った選手たちのレベルはひどく低下していたのだ。
なかでも白人たちの失望が大きかったのはラグビー代表チームの弱体化だった。だからこそマンデラはW杯決勝の日、かつて憎んだスプリングボクスのユニホームを着てフィールドに登場することを決断する。
エイズの蔓延や犯罪の増加、腐敗の拡大といった問題に苦しむ今も、南アの人々はあの日のマンデラの行動を歴史の変わり目として記憶している。それを見事に描いた『インビクタス』は、マンデラという偉大な指導者への優れた賛辞と言える。
名ばかりの「真実に基づく物語」とは異なり、『インビクタス』は当時の空気感を忠実に再現している。マンデラ役のモーガン・フリーマンは圧巻だ。彼のアクセントや声、振る舞いだけでなく年齢を重ねた魅力さえマスターした。
本物のマンデラは現在91歳。体力は衰え、公の場に出ることはめったにない。大統領として5年の任期を終えてからは、後継者であるターボ・ムベキ元大統領やジェイコブ・ズマ大統領の政策に口出しすることもほとんどない。
だが、マンデラが内心彼らの指導力に失望していないとしたら、そのほうが驚きだ。息子をエイズで亡くしたマンデラは、エイズ禍を食い止めようと積極的な啓蒙活動を行っている。しかし、まともなエイズ対策を取ろうとしないムベキのせいで33万人が死亡したといわれる。
07年にはズマがムベキからANC議長の座を奪おうとしたことをきっかけに、ANCは内部分裂に陥った。だがズマは、後に融和的な措置を取った。多くの専門家はズマがマンデラのやり方を見習ったと考えている。
今年6月に南アで開幕するサッカーW杯では、ズマも代表チームのユニホームを着るかもしれない。もし人々がその行動を何ら特別なものとは思わないとしたら、それこそマンデラにとって最高の賛辞となるだろう。
[2010年2月10日号掲載]