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イラン大統領選めぐって大騒乱
6月12日の大統領選で現職アハマディネジャドが「圧勝」すると、抗議する市民が首都テヘランの路上に連日繰り出し、多くの犠牲者を出しながらも政権を揺さぶった
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師がかつて愛した詩は、こんな1節で始まる。「おまえが挨拶しても答えは返って来ない。おまえの呼び掛けに答えるため、あるいは友人の顔を見るために、顔を上げる者は1人もいない」
「冬」と題されたこの詩が書かれたのは王制時代の1950年代。理想に燃えるイスラム教シーア派の若手宗教指導者だった当時のハメネイは、作者メフディ・アハバーン・サーレスの強烈な疎外感と不満を共有していた。
詩人はこの作品で、社会に深く根ざした強権的な圧政の実態を鮮烈な隠喩で表現している。
おまえが胸から吐き出した息は
黒い雲に姿を変え
壁のように目の前に立ち塞がる
そしてテヘランの通りが熱い興奮で包まれた2009年6月、多くのイラン人の目に冷酷な体制の象徴として映ったのは──ほかならぬハメネイ自身だった。
今のイランで繰り広げられているのは、単に圧政や自由に関する戦いではない。巨大な人の波となった抗議のデモ隊は、現体制を覆したわけではないし、それを狙っていたわけでもない。
だが王制を打倒したイスラム革命から30年、抗議の波はイランの政治風景を一変させた。人々の抗議活動は、神権政治(統治者が神の代理者として絶対権力を主張して支配する政治形態)の頂点に立つ宗教指導者の権威を著しく低下させた。その原因の多くは、最高指導者のハメネイにある。
過去のあらゆる革命がそうだったように、今回の事態も人間の意思とビジョン、野心と恨み、街頭のデモ隊と殉教者、舞台裏での権謀術数が複雑に絡み合っている。当局の検閲をかいくぐって送られてくる携帯電話の動画には、さまざまな光景が映し出されていた。
テヘランの通りを静かに、だが決然と進むデモ隊の列。警棒を振り回す民兵組織のオートバイ。時折発生する暴力行為。当惑気味にほほ笑みを浮かべるマフムード・アハマディネジャド大統領の画像は、もはやすっかりおなじみになった。今回の危機のきっかけは、現職候補の「圧勝」とされた6月12日の大統領選挙だった。
群衆のはざまには、大統領選の対立候補だったミルホセイン・ムサビ元首相のポスターも見える。改革を求める人々にとって、今やムサビは希望の象徴になった。
だが目まぐるしく変わる万華鏡のような画像の洪水の中で、国営テレビに登場したハメネイの映像は静かな幕間劇のようだった。欧米の人間には、イランの最高指導者といえば故ルホラ・ホメイニ師の厳しい表情が強く印象に残っている。それに比べ、後継者のハメネイは影が薄く見える。
ホメイニ流の強硬な演説
テレビのハメネイからは、カリスマ性がほとんど感じられない。実際、就任当初はたまたま最高指導者に選ばれただけで、適任者が現れるまでの「つなぎ」にすぎないという声もあった。
それから20年、ハメネイは最高指導者の地位を守ってきたが、その秘訣は個人の資質でも宗教上の権威でもない。ハメネイの武器は派閥間のバランスをうまく取りながら、自分を派閥争いから超然とした存在に見せ掛けることだった。
アハマディネジャドの大統領就任後の4年間、ハメネイは国内世論を2分するこの人物を全面的に支えてきたという批判もある。「長いこと権力の座にいる人間は誰でもそうだが、ハメネイもほめたたえられるのが好きだ」と、40年以上前からハメネイを知るイラン人の政治家は匿名を条件に語る。