最新記事

エドワード・ケネディ(アメリカ/上院議員)

今年を駆け抜けた人に
さようなら

世界に大きな影響を与えた
著名人・スターの軌跡

2009.12.08

ニューストピックス

エドワード・ケネディ(アメリカ/上院議員)

名門一家の偉大な兄たちの影の中で、自分らしい道を模索し続けた末息子

2009年12月8日(火)12時15分
エバン・トーマス(ワシントン支局)

 思慮の浅い金持ち息子。エドワード・ケネディは時に、その言葉どおりの男に見えた。大金持ちの家の子弟らしく、エドワードは現金を持ち歩かなかった。勘定を支払うのはいつもほかの人。スピード違反の罰金を払うのもほかの人だった。何しろ、彼はあのケネディ一族の1人。父ジョセフの言葉を借りれば「世界で最も入会するのが難しいクラブ」の一員だった。 
 ケネディ一族は無責任なほど大きな特権を持つ人々だとの印象を与えることもあった。私生活を見る限り、確かにそうだ。エドワードの場合もしかりだった。その一方で、上院議員としてのエドワードは過去半世紀間、おそらく他のどの議員よりも貧しい者や虐げられた者に心を配った。保守派から「税金を無駄遣いするリベラル」と事あるごとに嘲られても、信念を貫いた。

「人々の懸念は私たちの懸念だ。彼らのための仕事は続く。大義はくじけず、希望は今も生き、夢は決して死なない」。そう語った80年の民主党全国大会での演説は生涯で最も有名な演説になった。彼はその言葉のとおりに生きた。

 もちろん、社会問題に目覚めた金持ちはエドワードが初めてではない。昔から、富者は社会に道徳的な義務を負うと言われる。ニューディール政策を実施したフランクリン・ルーズベルト元米大統領も名門の出身だった。だがエドワードには、真剣さと不屈の精神があった。遊び半分の慈善家でも、偽善的な「金持ちリベラル」でもなかった。勤勉で、女性の権利や医療制度改革、移民や公民権の最大の擁護者だった。政治手腕も確かだった。上院では、何かを成功させたいなら頼るべき相手はエドワードだと言われた。

 ある意味で、エドワードの人生は一族に課された義務を果たすためにあった。ケネディ家とは、1つの国家のような存在だ。カトリックの一族に生まれたエドワードは、初めての聖体拝領をローマ法王から直々に受けた。彼に定められた運命は王家の「最後の息子」の務めを果たすことだった。

「取るに足りない末息子」の子供時代

 エドワードの物語はケネディ神話の信者の多くにとってなじみ深いものだと言える。それは罪と償い、勝利と悲劇の物語だ。だが良質のヒューマンストーリーの例に漏れず、陳腐な決まり文句には収まらない。エドワードの物語はより複雑で興味深い。物語の始まりは彼という人間の謎。富と特権を約束され、偉大であることを運命付けられた一族に生まれた男が、なぜ取るに足りない人間という印象を与えたのか。

 ジョセフ・ケネディがニューヨーク郊外に構えた屋敷の食堂には、大きなマホガニー製のテーブルがあった。ジョセフと妻のローズと9人の子供たち、数人の尼僧や使用人のための椅子がテーブルを囲んでいた。

 上座に座るのは家長のジョセフと「ゴールデントリオ」と呼ばれた年上の子供3人。ジョセフJr.とジョンとキャスリーンだ。3人は、野心的であれ、プロテスタントのエリート社会で成功しろと父ジョセフに教え込まれていた。

 テーブルの少し離れた場所に、母ローズと娘3人、3番目の息子ロバートが座った。ロバートは父親や魅力的な兄姉に注目されようと必死だった。彼は後に、家族のために「汚れ仕事」を引き受けるタフガイの役割を果たし、その望みをかなえることになる。

 末っ子のエドワードは一緒のテーブルに着かせてもらえなかった。兄や姉よりはるかに年下の彼は、すぐ上の姉のジーンらと共に部屋の隅で食事をした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中