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エコに懸ける地域経済学
鉱物資源の採掘から自然エネルギー産業へ大転換を図るコロラド州が成功している理由
アメリカではすべての企業がビジネスの規模を縮小している----というのはイメージにすぎない。「うちでは毎週3〜4人雇っている」と、コロラド州ソーントンに拠点を置くアセントソーラー社のプレム・ナス上級副社長は言う。
05年に設立されたアセントソーラーは、薄膜型の太陽電池メーカー。カードサイズの携帯端末用から1辺が4・5メートルある屋上用まで、幅広く展開する。太陽光の約10%を電気に変える効率の高さを国立再生可能エネルギー研究所(NREL)に認定され、大規模な生産ラインを増設中だ。
米政府では経済危機の解決策の1つとして、再生可能なエネルギーとインフラ、公共交通機関への投資が挙げられている。ここ数年、国に先んじてこの戦略を実践してきたコロラド州の州都デンバー周辺からは、可能性と限界の両方が見えてきた。
標高が高く大自然に恵まれたこの地域では、クリーンなエネルギーや環境に優しいライフスタイルに適した条件がそろっている。
人々のアウトドア熱は、時に腹立たしいほど。「あなたは何をする人か」という質問は、職業ではなくどんなアウトドア活動をしているかを尋ねている場合が多い。民主党のビル・リッター州知事のオフィスを訪ねたときは、側近が別室から自転車を引っ張り出してきたところだった。
州議事堂へ行けば、鉱物資源採掘の歴史が詰まっている。地元で産出したローズオニキスの壁に純金貼りの丸天井、そして炭坑を礼賛したニューディール時代のフレスコ画......。だがここにきて、コロラドは生まれ変わりつつある。
デンバーの住民は04年11月、市電網の拡充のために売上税の引き上げを認め、電力会社には供給電力の一部を再生エネルギーに切り替えるよう義務付けた。ロッキー山脈に囲まれた学園都市ボールダーは有機肥料やリサイクル、ハイブリッド車をはじめとする「自然礼賛」の中心地だ。
政府の支援を追い風に
06年に知事に就任したリッターは「新しいエネルギー経済」を提唱。その背景には時流の変化だけでなく、州内の大学付属研究所やNRELのような専門機関、さらに奨励金の後押しがある。09年4月に薄膜型太陽電池の生産を開始したアバウンドソーラー社は80年代にコロラド州立大学の研究室で誕生。90年代にエネルギー省から1500万ドルの助成を受け、ここ数年で1億5000万ドルを民間から調達した。
コロラド州は風力発電のメッカでもある。台地状の大平原グレートプレーンズは、サウジアラビアの原油並みに風力が豊富。ただし高さ91メートル、1枚の羽根の重さが7トンにも達する風力発電機の輸送には莫大なコストが掛かる。
08年、州北部のウィンザーにデンマークの風力タービンメーカー、ベスタスが進出。電力の大量消費地が近くにあり、労働力の教育水準が高く、税制面の優遇も受けられることに目を付けた。現在は世界最大の発電塔工場を含めてさらに3つの生産拠点を州内に建設中だ。ベスタスのアメリカでの鉄鋼消費量は推定で年20万トン、設備投資は総額7億ドルに達する。
行政の支援もある。NRELは地元企業を助成しているが、ブッシュ前政権下で2億5000万ドルだった年間予算は09年度には4億6050万ドルに急増。6600万ドルを掛けて建設するビルでは「エコ設計は節約になる」ことを証明するため、太陽光発電や最先端の省エネシステムで使用電力の100%自給を目指す。
おかげでデンバー地区の経済は米経済より好調だ。失業率は全米9・4%に対して7・5%。ただし、環境関連の雇用は全体的に見ればまだ小さい。ベスタスが本格的に始動すれば2500人の雇用が生まれるが、デンバー地区だけでもピーク時と比べて5万1659件の職が失われている。