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2009.11.24

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中国とインドが払うツケ

中国とインドはCO2排出削減に応じようとしないが両国が温暖化によって受けるダメージは先進国より大きい

2009年11月24日(火)12時06分
シャロン・ベグリー(サイエンス担当)

 今までに人類が排出し、現在大気中に存在している膨大な量の温室効果ガスのうち、中国とインドが排出した分はそれぞれ10%と3%にすぎず、先進諸国全体の75%に比べれば微々たるものだ(世界資源研究所調べ)。

 だから、まずは先進諸国が二酸化炭素の排出を減らすべきだと、中国やインドは一貫して主張している。7月にはインド側の当局者がヒラリー・クリントン米国務長官に、インド政府は排出削減に応じないだろうと通告している。

 今や世界最大の二酸化炭素排出国となった中国は、いまだに第5位のインドに比べると、そこまで露骨な物言いはしない。だが先進諸国に対して「今までに排出した総量と、今も国民1人当たりの排出量が多いことへの責任を取って......今後の排出量を大幅に削減」するよう求める一方、途上国は今後も「経済発展」を追求すると宣言している。要するに、こちらも削減の意思なしである。

 ひとまず筋は通っている。燃費の悪い大型車を乗り回しているアメリカ人に二酸化炭素の排出を減らせと言われる筋合いはないと、反発したくなる気持ちも分かる。

 だが、本当にそれでいいのか。中国もインドも来たるべき温暖化地獄から逃れることはできないし、高緯度地方に集まる先進諸国よりも深刻な影響が予想される。

ヒマラヤの氷河が消える

 自然の猛威は、たいてい富める者よりも貧しい者に厳しい。カネがあれば引っ越しもできるし堤防も築ける。エアコンもあるし、高くても食料を買える。だが貧しければ飢え、高波に溺れ、熱波と疫病で命を落とすことになる。

 気候変動の影響は地域によっても異なる。この点でもインドと中国は不利だ。07年の国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告によれば、中国とインド(特に北部)などの経済成長地域では21世紀末の気温上昇が実に5度前後と予想されている(西ヨーロッパなどでは2度程度とされる)。

 温暖化が進むと集中豪雨が起きやすくなり、降雨パターンが変わる。そのため中国やインドでは、洪水や干ばつの頻度が増えることも予想される。既に中国南部と西部では、1950年代に比べて洪水の件数が7倍に増えている。

 その一方、人口増に対応するためには20年代までに中国で最大15%、インドで5%ほどかんがい施設を広げる必要がある。熱帯性低気圧が大型化し、より激しい風と豪雨をもたらすとの予測もある。

 もっと悲惨なのは、中国でもインドでも新鮮な淡水の入手が困難になることだ。どちらの国も、農業用水や飲料水の大半をチベット高原やヒマラヤ山脈の氷河に頼っている。氷河から溶け出た水が長江や黄河、ガンジス川やインダス川を潤している。

 しかしヒマラヤ山脈の気温は世界平均に比べて3倍の速さで上昇しており、氷河はどこよりも急速に溶け出し、35年までには消滅する可能性がある。季節によってガンジス川やインダス川が干上がるようになるのも時間の問題だ。中国とインドに住む数十億の人が使える水の量は、今世紀中に20〜40%ほど減ってしまいかねない。

 今までは春の雪解け水が農業用に有効利用されていたが、温暖化で雪解けの時期が早まれば、その豊かな水も無駄に流れていく。そうした影響も考慮すれば、農業生産高は30年までに10%ほど減る恐れがあるという。

 今も中国では過去半世紀で最悪の干ばつが起きていて、3億人が水不足に悩み、2000万ヘクタールの農地に被害が出ている。稲の生育期の最低気温が2度上がるごとに、アジアのコメ生産量は10%減るとの予測もある。

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