最新記事

しゃべり過ぎ民主党の対米政策

オブザーヴィング
民主党

気鋭の日本政治ウォッチャーが読む
鳩山政権と民主党ニッポンの進路
by トバイアス・ハリス

2009.09.14

ニューストピックス

しゃべり過ぎ民主党の対米政策

民主党の幹部たちはしゃべりすぎ。幹部がこの調子でしゃべり続ければ、党の信用を損なうばかりだ

2009年9月14日(月)18時26分

[2009年8月25日更新]

 衆議院選挙の全立候補者を対象に毎日新聞が行なったアンケートを見て興味深かったのは、そこから見えてくる民主党という政党の姿だ。

 民主党は党内での意見の食い違いが大きく、総選挙で大勝したところで内部分裂によって政権運営に行き詰まるだろうとよく言われる。毎日新聞のアンケートからは、こうした見方とは違った民主党の顔が見えてくる。

 憲法改正問題をみてみよう。改憲そのものについては民主党候補者の過半数が意義を認める一方で、9条の改正に賛成するのは20%に過ぎない。集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈を見直すべきだと答えたのは、それより少し多い25%。自衛隊のアフガニスタン派遣に賛成したのは15%ほどだった。

 日本外交のあり方については過半数を大きく上回る62%がアジアに比重を移すべきだと答えたのに対し、日米同盟を最重視するべきだと考えたのは18%に過ぎなかった。ちなみに内政についてはさらに足並みがそろっている。

足並みそろえて「暴走」の危険

 こうした党内事情がもたらす危険性とは、身動きが取れなくなることではなくその逆だ。足並みがそろうことにより、党の上層部はかえって無謀な路線を歩む可能性がある。

 これは日本外交にとって何を意味するのだろう? 民主党政権は、一部の米専門家が考えるよりも強気でアメリカに異を唱えるようになるかもしれない。

 たとえば普天間飛行場の名護市辺野古への移設案について、民主党は白紙撤回をあくまで求めていこうとする様子がみられる。毎日新聞のアンケートには、沖縄海兵隊のグアム移転と普天間移設を柱とする在日米軍の再編に関する設問は含まれていない。

 だが現行の再編案に反対という点では民主党内はかなり足並みがそろっているのではないかと私は思う。日米同盟を重視するタカ派も、再編をめぐる日米合意には懐疑的な見方をしているからだ。

 民主党の菅直人代表代行は沖縄で(外交政策に関する民主党のいちばん過激な発言はたいてい沖縄で行なわれる)24日、9月に新首相とオバマ米大統領が会談する「可能性が高い」と述べた。「新首相」とオバマが腹を割って話せる関係が必要だと菅は言う。

 率直な関係(『友愛』を築くということだろう)を求めるのはけっこうだが、果たしてそれだけでいいのだろうか? 私は事務レベルで沖縄関連の対日交渉に携わっている米当局者から話を聞く機会が多いが、鳩山の心からのお願いが米政府から大歓迎されるとはとても思えない。

 率直な話し合いをすべきでないと言うつもりはない。在日米軍の再編案にはさまざまな問題点が浮上してきている。

 たとえば10年度の米国防予算法案の修正案は深刻な問題だ。再編に関連する建設作業に外国人労働者を使ってはならず、建築労働者の給料はハワイ並みの水準に引き上げなければならないという内容で、もしこの修正案が通れば100億ドルとされる海兵隊のグアムへの移転費用は倍増するかもしれない。

オバマなら説得できるとでも?

 落としどころは別にあるのではないか。週刊東洋経済のピーター・エニス記者は、全米アジア研究所のウェブサイトの日米問題会議室に書いている。普天間にある海兵隊のヘリコプターを嘉手納の空軍基地に移せばいいと。

 民主党はこれまで普天間飛行場の県外移設を主張してきたが、嘉手納への統合案で妥協する可能性もあると私は思う。だがこれには民主党執行部の強いリーダーシップが必要だ。

 菅が沖縄滞在中に言及した日米問題は他にもある。菅はアメリカとの密約、特に日本政府との事前協議なしに米軍が核兵器を持ち込むことを認めた日米間の秘密合意をめぐって外務省を批判。鳩山はこの問題でも、解決に必要なのはオバマとの率直な対話だとの姿勢だ。まるで、オバマを説得すればアメリカの政策を非核三原則に合わせて変えてもらえると思い込んでいるかのようだ。

 その一方で鳩山は、アメリカの核の傘は「やむをえない」と発言している。7月には、現状に合わせて非核三原則を見直す用意があることを示唆した。この立場は評価できると私は思った。

 ともあれ民主党の幹部たちはしゃべりすぎだ。こうした問題でどのようにアメリカにアプローチすべきかなんて、選挙に勝って組閣してから決めればいいものを。鳩山や民主党幹部がこの調子でしゃべり続ければ、党の信用を損なうばかり。政策はすでに固まっているという印象を与えれば、政権を取った後に撤回しなければならない事態を増やすだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中