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米医療保険改革
オバマ政権の「国民皆保険」構想に
立ちはだかるこれだけの難題
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前任者のトラウマに惑わされるな
オバマ大統領が医療保険改革に苦戦しているのはクリントン政権の失敗に学びすぎたから
悪いことに政治家というのは、軍人と同じように「1つ前の戦争」を戦う傾向がある。前任者たちの過ちを細かく研究し、二度と繰り返すまいと細心の注意を払った結果、逆の過ちを犯してしまう。過去の失敗を補おうと、過剰な取り組みを行うからだ。
現代のアメリカ大統領で、この誘惑の罠に落ちなかった大統領を挙げるのは難しい。ビル・クリントンは外交偏重のジョージ・H・W・ブッシュのやり方を覆そうと、最初の数年間、外交政策をないがしろにした。ジョージ・W・ブッシュは父の展望のなさとクリントンの規律のなさを正すため、壮大な展望を掲げ、職務では時間厳守をモットーにした。
バラク・オバマ大統領も、このお決まりのパターンに陥っているように見える。政権初期の今、医療保険制度改革に苦戦しているのはクリントンの失敗から学び過ぎた結果だ。
もちろん、クリントン政権の過ちは致命的なもので、繰り返してはならない。ビルとヒラリーは政策の細かな点まで口を出し、一方で政治的合意をまとめる手腕はなかった。妥協が必要な場合でも歩み寄りの姿勢を示すのではなく、拒否権の発動をちらつかせた。
妥協し過ぎて医療改革が骨抜きに
チーム・オバマの作戦の略図を描くには、クリントンの戦略を裏返してみればいい。オバマはまず保険会社や製薬会社、病院や医師など主要な利益団体を口説くことから始めた。これまでのところ、彼らのなかから反オバマの立場を表明する団体は現れていない。
オバマは何度も、妥協の用意はあると公言してきた。具体的な計画の提案も、特定の政策への支持もせず、代わりに制度改革の8原則──国民皆保険、保険料の妥当性、転職しても継続される携行性、医療の質、選択の権利、予防医療、財源の持続的な確保、将来的な医療費高騰に対する保護──を掲げ、後は議会に任せている。
いずれ「クリントン・モデル」への過剰反応がオバマに大きな困難をもたらすだろう。クリントンは制度改革をコントロールしようとし過ぎたが、逆にオバマは口を出さな過ぎだ。細かい部分を議会に任せたことで、法案にはあらゆる要素が詰め込まれている。利益団体の反発を防ぐために健全な政策のアイデアが排除され、必要なコスト管理がおろそかにされる。一方、民主党の大物議員に議会の舵取りを任せたことで、超党派の取り組みが損なわれてしまった。
外交政策でも同様の傾向が見られる。ここでの反面教師はブッシュ前大統領だ。
外交分野にはあまり強くないオバマは、ブッシュの過ちを避ける方針を取った。現実主義と多国間主義を掲げ、北朝鮮やキューバ、イランと向き合い、中東和平プロセスの促進にも熱心に取り組んでいる。イラクとアフガニスタンの優先順位も入れ替えた。
そうしたやり方が今、オバマをブッシュとは逆の危険に導いている。アフガニスタンに過剰に肩入れし、国連には信頼を寄せ過ぎている。独裁者にも対決姿勢を示すのではなく、彼らの言い分に耳を傾ける。
イランの大統領選後に起きた暴動でも、本来ならオバマはデモ隊寄りの立場を取っていただろう。しかし当初のオバマは、マフムード・アハマディネジャドとの対話の試みを台無しにしたくないという思いのほうが強かったようだ。
歴代大統領にはなかった強みも
こうした傾向に陥らない方法はないのか。理想的なのは、ヘーゲル弁証法でいうアンチテーゼ(最初の命題を否定すること)で終わるのではなく、さらに優れたジンテーゼ(最初とは別の命題)を速やかに導き出すことだろう。明敏なオバマなら、うまくできるはずだ。彼は間違いに気付いたら、そのまま穴を掘り進むのではなく、そこから抜け出す道を探し始めるタイプだ。
イランについても遅ればせながら、「人々が人生や運命について発言権を持てるような、普遍的な原則」が必要だとの見解を示した。制度改革も見直しを行っているようだ。
オバマにとってもう1つの救いは、制度改革の反対派も「1つ前の戦争」を戦っていることだ。94年に「ヒラリー版改革案」を阻んだことが自分たちのプラスになった経験から、多くの共和党議員がオバマ版改革の阻止も同じ効果を挙げると考えているようだ。
たとえ阻止に成功しても、今回は前回のようにはいかないはずだが。
[2008年12月19日号掲載]