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ウィリアム・ギブスンらSF作家が日本に未来を見るこれだけの理
(左から)『高い城の男』(The Man in the High Castle)、『ニューロマンサー』(Neuromancer)
功績をたたえるべきかどうかはさておき、私たちに未来の世界を提示したのがウィリアム・ギブスンであるのは確かだ。
84年、アメリカのSFファンは、タイムマシンの力を借りて書いたような1冊の本に夢中になった。彼らをノックアウトしたのは、ギブスンの『ニューロマンサー』(邦訳・ハヤカワ文庫)だ。
この作品で描かれるのは、サイバースペースを飛び回るハッカーや犯罪組織、先端技術、莫大な富と背中合わせの絶望的な貧困、遺伝子操作、ドラッグ......。『ニューロマンサー』の舞台は、コンピュータ・ネットワークで結ばれた、暗く猥雑な世界だ。
スタンリー・キューブリックは『2001年宇宙の旅』(68年)で無機的な未来世界を描いた。だが80年代には、ギブスンの未来世界のほうがリアルに思えたものだ。その舞台こそ、日本だった。
「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった」――こんな殺伐とした描写から始まる『ニューロマンサー』は、「サイバーパンク」というジャンルの確立に貢献。アニメ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や映画『マトリックス』、韓国のゲームも、この流れをくむ。『ニューロマンサー』の冒頭に登場する都市は千葉。テクノロジーに牛耳られた無法地帯という設定だ。この作品によって、ハイテク日本の近未来の光景がSFファンや「おたく」の最初の世代の脳裏にしっかり刻まれた。
テクノロジーの最先端をいく日本の虚無的なイメージは、アウトサイダーの心をとらえた。その後、日本の発展のスピードは衰えたが、「ニューロマンサー世代」の人々は今も、ネオンがきらめく東京の街に特別な思いをいだいている。
なぜ、未来世界の舞台に日本が選ばれたのか? 80年代前半には、世界で日本のイメージが確立しはじめていたのは確かだ。自動車業界では日本のメーカーが米企業を脅かし、ソニーはエレクトロニクスのトップブランドになっていた。
日本人はエイリアン?
『ニューロマンサー』が出版される2年前に公開された映画『ブレードランナー』の舞台は、漢字のネオンがきらめく未来のロサンゼルス。この映画を見ると、世界中が新宿の猥雑な雰囲気にのみ込まれるような錯覚を覚える。
とはいえ、欧米の作家が日本に興味をいだいたのは、それよりはるか以前からだ。ジュール・ベルヌが1873年に発表した『八十日間世界一周』(岩波書店ほか)にも横浜が登場する。
小説の題材として日本が取り上げられやすい理由の一つに、エキゾチシズムがある。欧米人は、侍や禅、芸者に弱い。77年に出版されたリチャード・ルポフの『神の剣 悪魔の剣』(東京創元社)から、リアン・ハーンによる最近のベストセラー『鳳物語』まで、今もその傾向は認められる。