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ニューストピックス
『卒業』
滑稽でリアルな甘ったれ青年の青春
[英語版1968年1月 1日号掲載]
チャールズ・ウェブの小説『卒業』は、中年女性と情事を重ねた末、その娘と恋に落ちる青年の物語。これをマイク・ニコルズ監督はユーモアあふれる映画に仕上げた。
ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は東部の大学を優秀な成績で卒業。両親はビバリーヒルズの大金持ちで、欲しいものは何でも手に入る。でも、自分は何をしたいのかが分からない。そんな青年をホフマンは愛すべきキャラクターに仕立て上げた。
ときおり目障りなカットや耳障りな音響もあるが、ニコルズは社会風刺と神経衰弱ぎりぎりのコメディー、現実離れした叙情性の間を自在に行き来する。それをがっちり支えるのがロバート・サーティーズのカメラワークと、サイモン&ガーファンクルの歌声だ。
特におかしいのが、父親の親友の妻ミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト)との情事。滑稽でウイットに富み、伸び伸びした雰囲気にあふれている。「私って魅力ないかしら」とミセス・ロビンソンがしなをつくると、ベンジャミンは慌てて答える。「とんでもない、ミセス・ロビンソン。両親の友人のなかでは一番魅力的ですよ」
しかしベンジャミンが娘エレーン(キャサリン・ロス)に心を移すと、途端に深刻な色合いを帯びてくる。この辺りは原作からもっと飛躍してもよかった。原作に対する思い入れから、長所だけでなく欠点まで再現してしまった。
だが致命傷ではない。物語は小気味いいテンポで展開し、最後はワイルドで軽快な疾走場面が待っている。