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『ロスト・イン・トランスレーション』

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2009.08.03

ニューストピックス

『ロスト・イン・トランスレーション』

異国ニッポンでの切なくてオフビートな自分探し

2009年8月3日(月)12時55分

 ソフィア・コッポラの監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』の感想を聞かれた女優スカーレット・ヨハンソンは、本音でこう答えた。「小説の映画化は、いつだってむずかしい。あの映画は好きになれなかった。『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィアは、ずっと上手だった」

 このコッポラ評は的を射ている。ベストセラーに頼らずに作ったこの作品で、彼女は確かな目をもつ映画人であることを証明した。

 ヨハンソン演じるシャーロットは、写真家の夫が仕事に夢中なのでいつも独りぼっち。そんなとき、ウイスキーのCMに出演するため日本を訪れた俳優ボブ(ビル・マーレー)に出会う。人生の目的を見いだせない若い女と、中年危機の男。2人が一緒に過ごすつかの間の時間が、この繊細でおかしく、もの悲しいコメディーの核になる。

 CM撮影のシーンでは大いに笑わせるが、マーレーはいつもの彼とは違う。シニカルな仮面を脱ぎ捨て、中年男の揺れる心をさらけ出す最高の演技だ。ヨハンソンも、マーレーに引けを取ることなく、異文化の東京で疎外感にさいなまれる大人の女性を演じきった。

 コッポラの視点はぶれることがなく、表現は軽やかだが緻密そのものだ。細部の描写は見事というほかはない。父フランシス・コッポラの映画が壮大なオペラだとしたら、娘の作品は繊細な室内楽といえるだろう。

[2004年4月 7日号掲載]

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