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世界が見た日本政治
政権交代をかけた総選挙が迫っている 混迷するニッポン政治の出口は
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政権交代まで日本の漂流は終わらない
内需拡大のない経済政策のままではデフレが再燃しかねない
福田康夫首相辞任のニュースが流れた直後、私は日本人記者から多くの質問を受けた。「国際社会の反応は?」「日本経済に対する外国人投資家の見方はますます悲観的になるのでは?」
私は正直に、国際社会はおおむね無関心だと答えた。日本の政治は救いがたい混乱状態にあり、経済は低迷を続け、国そのものが漂流している----福田辞任のニュースはそんな従来の見方を追認しただけであり、その意味では目新しさは何もない、と。
もちろん、国際社会の反応が正しいとはかぎらない。外国人投資家は日本の専門家ではないし、専門家も将来の予測を見誤ることはある(その実例はバブル経済が崩壊した90年以降、何度もあった)。
だが、この外国人投資家の分析はきわめて妥当なものに思える。唯一の例外は、日本の政治は救いがたい状態にあるという診断だ。
小泉純一郎首相の退陣から2年、日本が漂流を続けてきた原因は、強力な政府の不在と過渡期から抜け出せない政治にあった。その結果、日本は食糧危機やWTO(世界貿易機関)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)といった世界的課題に明確な対応を打ち出せず、国際社会を失望させた。
部外者からみて、90年以降の日本で最も奇妙な点は、自由民主党が政権を担当し続けたことだ。ほかの民主主義国なら、経済的・政治的失策を犯した与党は選挙で厳しく断罪され、別の政党や政治家が代わりに政権の座に就く。
それでも、1年前の安倍晋三前首相に続く福田首相の突然の辞任は、ようやく訪れた大きな変化を反映する出来事だった。07年の参議院選挙で勝利した野党・民主党は、法案の成立を阻止する力を手に入れた。近いうちに実施される次の衆議院選挙(総選挙)では政権獲得も視野に入れている。
つまり、日本の政治は様変わりしたが、まだ国際世論はこの事実に気づいていない。次の総選挙がもつ意味の大きさも、正しく理解しているとはいえない。
一方、経済は相変わらずだ。08年4〜6月期、日本の実質GDP(国内総生産)がマイナス成長を記録した事実は、7年近くに及ぶ景気拡大にもかかわらず、日本経済が根本的に90年代から何も変わっていないことを示唆している。
このマイナス成長の原因は、輸出と投資の不振にある。後者は建築基準法改正に伴う住宅着工戸数の減少が響いた面もあるため、一時的な現象にすぎない可能性もあるが、輸出の不振はしばらく続きそうだ。日本の2大輸出市場である中国とアメリカ、とくにアメリカの需要が急減しているからだ。中国でも、今年下半期は鉄鋼消費量などの伸びが鈍化するとみられており、輸入全体の需要もさらに落ち込む可能性が大きい。
日本の景気拡大の間、外国人エコノミストは雇用と賃金が増加し、家計消費が力強く伸びはじめるのを待ち続けた。それによって消費が輸出に代わる景気の牽引役となり、企業投資に新たな刺激を与えることを期待したからだ。
だが雇用は増えたものの、賃金は上がらず、消費の伸びはごくわずかだった。その結果、エネルギーや食糧の輸入価格が急騰したにもかかわらず、日本では依然としてデフレ圧力が残っている。石油と食糧の価格が急落しはじめた今は、デフレ再燃の可能性もある。
■ナショナリズムをあおり反中感情が甦る可能性
福田首相の辞任表明直前に政府・与党が決定した総合経済対策は、自民党が相変わらず日本経済の現状を見誤っていることを示している。柱となる施策の焦点はいずれも企業の生産増加と技術力強化、つまり供給サイドのてこ入れを図るものだ。しかし日本経済の問題は、需要の弱さにある。
需要拡大が期待できる景気対策としては、たとえば減税があげられるが、政府の深刻な財政赤字を考えれば実施は困難だ。実際、政府は総合経済対策に所得税と住民税の定額減税を盛り込んだが、具体的な額は先送りした。
減税に代わる対策には、最低賃金の大幅な引き上げがある。もともと日本の最低賃金はOECD(経済協力開発機構)加盟国中、最低レベルだ。しかし、これには当然、財界の反対がある。
いずれにせよ、こうした施策は少なくとも総選挙後、おそらく自民党が下野するまで実現不可能だろう。国際社会で日本が漂流しているとみられているのは、実際に漂流しているからにほかならない。総選挙が実施されるまで、この見方は変わらないはずだ。もし明確な選挙結果が出なければ、その後も根強く残る可能性がある。
現在の経済・政治環境なら、日本が漂流を続け、国際舞台で明確な意思表示や積極的関与ができなくても、大きな影響はないだろう。日本は小泉首相が退陣した2年前から何も変わっておらず、90年代に逆戻りするだけのことだ。
日本は世界的な食糧危機に有効な対応を取れなかった。もしコメの備蓄を国際市場に放出したり、アジア諸国に大型の経済支援を実施していれば、中国に対抗してアジアでの発言力を高めることができたかもしれない。WTOのドーハ・ラウンドで、7月に交渉が決裂する前に日本がリーダーシップを発揮できた可能性もあった。
とはいえ、どちらのケースでも日本の存在感が希薄なことは決して意外ではなかった。国際的な影響がより大きいのは、自民党が新首相の下で、自党の暗い政治的見通しと日本の閉塞状況を打破するためにナショナリズムと反中国感情をあおる戦略に出た場合だ。
9月22日の自民党総裁選の本命と目されている麻生太郎幹事長が、こうした大衆迎合的な路線を選ぶかどうかはわからない。だが国際社会には、それを懸念する人間が大勢いる。
[2008年9月17日号掲載]