最新記事

鍵田真由美(フラメンコダンサー)、佐藤浩希(フラメンコダンサー)

世界が尊敬する
日本人 part2

文化と時代を超えたジャパニーズたち
最新版は7月1日発売号に掲載!

2009.06.29

ニューストピックス

鍵田真由美(フラメンコダンサー)、佐藤浩希(フラメンコダンサー)

情熱の舞で聖地に挑む

2009年6月29日(月)15時35分
デーナ・ルイス(東京)

 今なら想像もつかないだろうが、鍵田真由美は初めてスペインに行ったころは泣いてばかりだった。

 鍵田(41)とパートナーの佐藤浩希(34)は、今や日本のフラメンコ舞踊界のトップスターだ。スペインでは「マミ・イ・ヒロ(マミ&ヒロ)」の名前で知られ、数々の賞を受賞し、東京とフラメンコの聖地ヘレスの間を年に3回往復する。

 04年には近松門左衛門の原作を基にした『FLAMENCO曽根崎心中』で、フェスティバル・デ・ヘレスにスペイン国外の舞踏団として初めて正式参加した。ディアリオ・デ・ヘレス紙でデービッド・フェルナンデスが次のように評している。

 「日本版『ロミオとジュリエット』を独創性あふれるスタイルで、コンプレックスをまったく感じさせずに舞った」  

 もっとも、いつも自信にあふれていたわけではない。91年にスペインへ向かう飛行機の中で、鍵田は涙が止まらなかった。

 「スチュワーデスたちに、大丈夫ですかと声をかけられた」と、鍵田は言う。「フラメンコのためにスペインへ行かなければならない、すべてを日本に置いて行くんだ、そう思っていた」

 スペインでは朝も昼も夜も踊り続けた。「夜になると顔が半分麻痺していた。ベッドに倒れ込んでどこがいけないのだろうと悩み、朝になるとまた踊っていた」
 
 そんな鍵田の踊りに出会ったのが佐藤だ。介護福祉士の勉強をしていた佐藤は92年に友人たちに連れられ、初めてフラメンコのクラブをのぞいた。鍵田は6歳からモダンダンスを習っていたが、佐藤はダンスに縁がなかった。

 「すごい衝撃だった」と、佐藤は言う。「これこそ自分の探していたものだと思った」。彼は鍵田のスタジオのドアをたたき、4年後の96年に河上鈴子スペイン舞踊新人賞を受賞した。

 現在、2人はヘレスに家を持ち、東京・渋谷の近くにもフラメンコスタジオ「アルテ・イ・ソレラ(芸術と伝統)」を構える。心の本拠地はあくまでもスペインだ。
 「2人の東洋人がフラメンコを選んだことが、まちがっていなかったと証明したい」と言う鍵田は、いったん舞台を降りるとまじめでもの静かに見える。一方、「フラメンコは人生」と言いきる佐藤は、口調も情熱的だ。「私たちでこぼこカップルでしょう!」と鍵田は笑う。

 その化学反応が、マミ&ヒロをフラメンコの故郷で輝かせる。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中