最新記事

神戸俊平(獣医師)

世界が尊敬する
日本人 part2

文化と時代を超えたジャパニーズたち
最新版は7月1日発売号に掲載!

2009.06.29

ニューストピックス

神戸俊平(獣医師)

アフリカゾウの叫びに耳を傾けて

2009年6月29日(月)15時25分
中村美鈴

 親を亡くしたり病気になって保護された野生動物が、ケニア中から運ばれてくるナイロビ動物孤児院。ここで神戸俊平(61)は、30年以上もボランティアの獣医として働いている。

 「檻の中ではなくサバンナにいる野生のゾウが見たい」──神戸がアフリカに旅立ったのは25歳のとき。2週間のバックパック旅行のつもりが、傷ついた動物たちから離れられなくなり、今日まで野生動物の保護に人生をささげている。

 神戸がとくに力を入れているのが、絶滅の危機にあるアフリカゾウの保護。象牙を狙った密猟で激減したアフリカゾウは近年、開発による「生息地の減少」という新たな問題に直面している。
密猟者から逃れ、森林伐採で行き場を失ったゾウが人間の居住区に侵入し、両者の間に軋轢が生じている。

 この衝突を解消するため、神戸はケニア政府が行うアフリカゾウ移送作戦に協力している。移動のために麻酔銃を撃たれるゾウにとっては命がけの作戦。神戸はゾウの体に負担がかかりすぎないよう、麻酔量を調節する重要な役を担い、ケニア政府からの信頼も厚い。スワヒリ語も話せるので、ケニア人レンジャーとの意思疎通も完璧だ。昨年は150頭を2カ月がかりで安全な保護区へ移送した。

 5年前からは、スラムの貧困問題にも取り組みはじめた。ストリートチルドレンに給食を出したり、国立公園へ連れて行って動物に触れさせたりしている。「小さいうちに野生動物の大切さをわかってもらいたい」からだ。

 ケニア人にとって、ゾウやライオンは実は決して身近な存在ではない。入場料が必要な国立公園へ行ける裕福な人はほんのひと握り。スラムの子供は自分の国に希少な野生動物がいると知らないまま成長し、貧しさから密猟に手を染めてしまう。「貧困が解決されれば動物を守る気持ちも生まれるはず」と、神戸は話す。

 だが需要があるかぎり供給は続く。日本は世界有数の象牙消費国。「象牙を買う日本人がいるから密猟は消えない」と、神戸は訴える。「野生動物たちのうめきが聞こえる気がしてならない」

 36年前に始まった神戸の旅は、まだまだ終わりそうにない。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中