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神戸俊平(獣医師)
アフリカゾウの叫びに耳を傾けて
親を亡くしたり病気になって保護された野生動物が、ケニア中から運ばれてくるナイロビ動物孤児院。ここで神戸俊平(61)は、30年以上もボランティアの獣医として働いている。
「檻の中ではなくサバンナにいる野生のゾウが見たい」──神戸がアフリカに旅立ったのは25歳のとき。2週間のバックパック旅行のつもりが、傷ついた動物たちから離れられなくなり、今日まで野生動物の保護に人生をささげている。
神戸がとくに力を入れているのが、絶滅の危機にあるアフリカゾウの保護。象牙を狙った密猟で激減したアフリカゾウは近年、開発による「生息地の減少」という新たな問題に直面している。
密猟者から逃れ、森林伐採で行き場を失ったゾウが人間の居住区に侵入し、両者の間に軋轢が生じている。
この衝突を解消するため、神戸はケニア政府が行うアフリカゾウ移送作戦に協力している。移動のために麻酔銃を撃たれるゾウにとっては命がけの作戦。神戸はゾウの体に負担がかかりすぎないよう、麻酔量を調節する重要な役を担い、ケニア政府からの信頼も厚い。スワヒリ語も話せるので、ケニア人レンジャーとの意思疎通も完璧だ。昨年は150頭を2カ月がかりで安全な保護区へ移送した。
5年前からは、スラムの貧困問題にも取り組みはじめた。ストリートチルドレンに給食を出したり、国立公園へ連れて行って動物に触れさせたりしている。「小さいうちに野生動物の大切さをわかってもらいたい」からだ。
ケニア人にとって、ゾウやライオンは実は決して身近な存在ではない。入場料が必要な国立公園へ行ける裕福な人はほんのひと握り。スラムの子供は自分の国に希少な野生動物がいると知らないまま成長し、貧しさから密猟に手を染めてしまう。「貧困が解決されれば動物を守る気持ちも生まれるはず」と、神戸は話す。
だが需要があるかぎり供給は続く。日本は世界有数の象牙消費国。「象牙を買う日本人がいるから密猟は消えない」と、神戸は訴える。「野生動物たちのうめきが聞こえる気がしてならない」
36年前に始まった神戸の旅は、まだまだ終わりそうにない。
[2006年10月18日号掲載]