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NIGO(デザイナー)
NYキッズがあがめるカリスマ
穏やかな口調、繊細で伏し目がちな視線。迷彩柄の帽子にポップなイラスト入りのTシャツ。ひと目見ただけでは、彼が米ヒップホップ界で最もリスペクトされている日本人とは誰も思わないだろう。
30代のデザイナー、NIGOが93年に東京で始めたブランド、ア・ベイジング・エイプ(通称BAPE)がアメリカで注目されはじめたのは数年前。キャンディーのようにカラフルなBAPEのスニーカーを、一部の人気ラッパーが履きはじめたのがきっかけだ。
噂はすぐに口コミで広まり、NIGOはヒップホップ界の人気デザイナーに仲間入りした。アンディ・ウォーホルが創刊したインタビュー誌が表紙に起用する注目ぶりだ。ファンには、グラミー賞受賞者のカニエ・ウエストやJAY-Zなど大物スターも多い。
グウェン・ステファニは、「原宿ガールズ」でこう歌う。「NIGOがア・ベイジング・エイプを作ったときに世界は逆転/私って高いものが好みなの」
ブランド好きの心をくすぐるのは、トレードマークの猿のマークや迷彩柄に鮮やかな色を利かせ、ひと目でBAPEとわかるデザイン。だが最大の魅力は、どの商品も数が限定されている点だろう。
「店に出たときに買わないと、2度と手に入らない」と、ブルックリンでスニーカー専門店プレミアムグッズを営むクラレンス・ネーサンは言う。「同じ色の靴でも素材が違う。NIGOは同じことを繰り返さないところが天才的だ」
東京の今を宿すデザイン
NIGOいわく、数限定の理由は単純。「自分が人と同じものは着たくないから」だ。93年に原宿で自作のTシャツを扱う店を始めたころから、この姿勢は変わらない。「Tシャツも今の10倍は売れると思う。でも一つの商品の量を増やすなら、型数を多くして全体量を増やしたほうがいいですね」
昨年末にニューヨークのソーホー地区に店を開いた際は、最新の商品を手に入れようと地元の若者が行列をつくった。人気のスニーカーは185~225ドルだが、店ができる前は転売サイトや専門店で300ドル以上の値がついた。
「まさかこんなことになるなんて思わなかった」と言うNIGOだが、ここ数年BAPEをはじめさまざまな日本のブランドや文化が注目される状況を、ブームとは考えていない。「今までは欧米から買う側だったけど、今度は売る側になって同じ立ち位置になった」
ニューヨーク滞在中のある日、日本の大手ブランドの大きな店を見たときには危機感を覚えた。これが東京や日本のスタイルと思われるのは悔しい――この思いが進出を決めるきっかけになった。「アメリカにもヨーロッパにも影響を受けていて、親しみやすいけど見たことがない。それが東京のもの」とNIGOは言う。「売れる売れないは別にして、リアルな東京のスタイルを見せたかった」
今月には台湾、来年は香港とロサンゼルスにも進出する予定。服以外にも手がけたいものは無数にある。すでに日本ではBAPEのヘアサロンやカフェをプロデュースし、ペプシと組んでフィギュアや迷彩柄の缶も手がけた。「チャンスがあればホテルもやりたい。ライフスタイルという意味では、全部コーディネートできるから」
猿のマークと迷彩柄をあちこちにちりばめた超高級ホテルが誕生する日も、遠くないかもしれない。
[2005年10月26日号掲載]