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2009.06.19

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お見合い大国を揺らす若者の乱

急速な近代化で恋愛結婚を選ぶ若者が増加する一方で離婚率の上昇や世代間の対立激化も

2009年6月19日(金)16時05分
ジェーソン・オーバードーフ(ニューデリー支局)

 リージャ・コニデラ(19)は先日、デリーから南部アンドラプラデシュ州の州都ハイデラバードに帰郷した。家族の葬儀に出るためだったが、周囲の反応は思った以上に冷たかった。

 コニデラは、テルグ語(アンドラプラデシュ州の公用語)の映画界を代表する人気俳優チランジーヴィの娘。異なるカースト出身のシリシュ・バラドワジ(23)と駆け落ちしたため、家族から勘当されていた。

 2人は昨年10月、生中継のテレビカメラの前で結婚式を挙げた。結婚に反対するチランジーヴィが、娘はバラドワジに誘拐されたと裁判所に訴えるおそれがあったため、公の場で愛を誓い合ったのだ。

 だが、このテレビ結婚式はチランジーヴィを愛する大勢のファンの怒りに火をつけた。寺院でも婚姻届を提出する登記所でも群衆に追い回された2人は、恐怖にかられてデリーに逃げた。

 それ以来、久々に故郷に戻ってきた2人を、コニデラの親族は許そうとしなかった。バラドワジを家の外で待たせ、コニデラを脅して親が選ぶ別の男と結婚させようとした。「親族が私を洗脳しようとしたので、急いで逃げた」と、コニデラは言う。

 急速に近代化が進むインドでは、結婚観の変化に伴い、子供が親に反旗を翻す例が増えている。大学卒の初任給が親の収入を上回ったり、欧米文化の影響で女性が強くなったこともあり、古い伝統を打ち破ろうとする若いカップルが目立つようになった。

 シカゴ大学のディビヤ・マトゥルが昨年11月に行った調査によれば、一世代前は珍しかった恋愛結婚が、今では都市部の結婚の10%を占める。自分で配偶者を選んでから親の承認を得る「恋愛型見合い婚」も19%にのぼる。

 親が付き添う窮屈な見合いを嫌い、ネットや友人を通じて相手を見つける若者も増えている。06年に1500万ドルだったネット結婚仲介業の収益は、07年には3500万ドルに急増。パートナー紹介サイトを訪れるインド人は1200万人を超える。

 ただし、変化が生み出すのは愛と幸福だけではない。人口統計の専門家によれば、91年から最新の国勢調査が行われた01年の間に、離婚率は2倍の約7%に増えた。都会に住むカップルの間では、その後も離婚率が上昇し続けていると、複数の弁護士は断言する。「インドは変化の時代に入った」と、デリーの法廷でコニデラとバラドワジの弁護人を務めたピンキー・アナンドは言う。

高学歴の強い女性が増加

 伝統的にインドでは、どの宗教でも結婚話は親がまとめるものだった。結婚は家族間の宗教的契約、社会秩序を守るための仕組みとされ、処女の娘を嫁がせるのが決まりだった。結婚を個人的な契約とみなす考えは存在しなかったと、ケンブリッジ大学の文化人類学者ペルベズ・モディは言う。

 異なるカースト間の結婚はタブーだったため、見合い結婚は下位カーストの人々が上の階層に移るのを抑え、世襲の仕事に就くよう仕向ける役割も果たしていた。

 デリーの社会学者パトリシア・ウベロイは、「多くの女性は思春期以前に結婚した。適齢期の女性を家に置いておくことは大きな罪だった」と指摘する。結婚後、夫婦は夫の親と同居し、「合同家族」の中に組み込まれた。新妻にはほとんど権利がなく、義母や夫の兄弟、その妻に従うしかなかった。

 現在でもカーストと宗教の壁は厚く、古い制度が根強く残っている。親は親族の人脈を使ったり新聞広告を出したりして、子供にいい配偶者を見つけようとする。話がかなり進むまで、娘や息子はかやの外というケースも少なくない。

 だが一方で、複雑な政治・経済・社会的変化が古い慣習を揺さぶっているのも事実だ。都市化と格差是正措置の影響で、カースト制にもほころびがみえはじめた。

 71年当初は全体の約20%だったインドの都市人口は、今では28%以上。都市化が進むにつれ、相手のカーストを確認するのがむずかしくなった。進学や公的機関への就職で下位カーストを優遇する政策と経済構造の変化によって、低いカーストの人々も世襲の仕事から抜け出せるようになった。

 ハリウッド映画が国内映画に対抗して人気を集め、ヴォーグ誌やコスモポリタン誌が街角の新聞スタンドに並ぶようになったことで、若者、とくに若い女性が欧米の考え方に触れる機会も増えた。

 今では名門大学の工学部を卒業すれば、就職後2~3年で親の収入より多い年収3万ドルを稼ぐこともできる。コールセンターのオペレーターでも、親に逆らえるだけの収入はある。

 この高収入が若い世代の家族離れを促している。コンサルティング会社ワトソンワイアット・アジアパシフィックによれば、都会の労働人口に占める女性の比率は18%だが、高等教育機関の入学者の38%は女性だ。ホワイトカラーの職に就く女性も増えている。その結果、女性は権利にめざめ、男性との接触も自由になってきた。

 こうした変化によって、親が子供の結婚を決めるというルールの強制力が弱まり、自分で配偶者を選ぶ子供が増えている。

駆け落ちすれば殺される

 インド社会は、こうした変化への対応に苦しんでいる。伝統の力が弱まり、男女関係が対等に近づくと、離婚率が上昇しはじめた。古い制約や愛のない結婚にノーと言う女性が増えたからだ。

 この傾向は地方にも広がっている。インディア・トゥデー誌によると、若年結婚の約10%が離婚にいたっている。離婚などの女性問題に取り組む弁護士のギータ・ルスラによれば、妻が家事や客の接待、夫の家族への服従を拒んだという理由で、離婚を決める夫が多いという。

 一方、恋愛結婚が深刻な対立を引き起こすケースも目につく。とくにハリヤナ州、パンジャブ州、ウッタルプラデシュ州など北部・北西部の農村部では、駆け落ちしたカップルの殺害は珍しくない。4月だけで、少なくとも5件の殺人事件が報道されている。

 「下位カーストの男性が上位カーストの女性と親密になると、男性はまちがいなく殺される。女性もカーストと関係なく、ほぼ確実に殺される」と、結婚制度とカーストについての著書がある作家のプレム・チョウドリーは言う。

 現時点では、国の対応は十分とはいいがたい。カーストや宗教が異なる者同士の結婚は、1872年の「特別婚姻法」で表向き合法化された。だが時間の経過とともに、この法律は恋愛結婚を妨げるための道具に変質していった。

 1954年に法律が改正されて以降は、結婚しようとする男女はその意思を裁判所に申告し、両親の名前と住所を報告したうえで、警察が2人とも未婚だと確認するまで30日間待たされることになった(この規定は現在も有効)。

 最高裁判所は06年、カーストや宗教が異なるカップルの保護を全国の警察などに命じた。だが結婚に反対する親たちは、今も特別婚姻法の規定を利用して駆け落ちした2人の所在を突き止め、実家に連れ戻している。男性を誘拐容疑で訴えるケースも少なくない。

 警察は大半の女性が自分の意思で駆け落ちしたことを知りながら、たいていはカップルを探し出して男性を逮捕し、女性を親元に帰す。裁判官も、「同意のうえ」での駆け落ちだという女性の証言を無視することが多い。

 離婚手続きも時代遅れだ。夫婦のどちらかが離婚を拒否した場合、裁判所での手続きに15年かかるケースもある。ウッタルプラデシュ州の農村部に住むラニ(23)のような女性にとっては、耐えがたい長さだ。「私は今すぐ離婚したいのに!」と、彼女は嘆く。

結婚前のデートもOK

 一方、裁判の遅さに業を煮やした女性が、結婚持参金や家庭内暴力に関する法律を悪用して夫を訴え、早期の和解を迫ることもある。訴えられた夫は離婚成立まで毎週、裁判所と警察に足を運び、逮捕や投獄の恐怖に怯え続ける。

 こうした問題があるせいか、欧米化した都会の若者でも、恋愛についてはかなり保守的だ。今も大半の若者は、親が認めてくれそうな相手を懸命に探す。

 親に内緒で結婚したカップルの多くは、その事実を伏せたまま親との生活を続け、まず配偶者を「いい友人」として紹介する。その後、少しずつ接触の機会を増やしていき、真相が明らかになる前に親の承諾を得ようとする。

 だが、最近は親の言いつけどおりに結婚する若者たちでさえ、変化の兆しを感じている。カーストや社会階層の壁は徐々に低くなってきた。親が決めた結婚でも婚前に相手と会うことを禁じる古いルールは緩和され、現在は少なくとも電話で話ができる。デートが許される場合もある。

 ネット上の結婚仲介サービスの登場も、変化を後押ししている。以前は郵便で相手の写真や履歴書が届くまで、若者たちは自分の結婚話が進んでいることに気づかなかった。わが子との対立を避けるため、親は見合いの情報をなかなか教えなかった。

 今ではパートナー紹介サイトに掲載されるプロフィールの40%は、本人が作成している。結婚仲介業界の関係者によると、プロフィールを見る側の約40%も、結婚相手を探している若者たち自身だ。「今の結婚は、親と子の交渉の産物だ」と、デリー大学の社会学者ラディカ・チョプラは言う。

 デリーの中流カップル、夫アルンと妻ディープティの結婚までの道のりは、そのいい例だ。

 2人は秘密の交際を数年間続けた後、05年に結婚を決意したが、どちらの両親も反対した。2人ともカーストは最高位のバラモンだが、サブカースト(カースト内の下位区分)は異なる。アルンは経済的な後進地域とされる東部のビハール州出身で、ディープティはデリー育ち。しかもディープティのほうが高学歴で英語もうまく、収入も上だった。

 それでも粘り強い説得が実り、2人は家族の承諾を得て3年前に結婚した。「2人とも駆け落ちする覚悟はできていた」と、ディープティは言う。「でも、両親に賛成してほしかった。インドでは昔からずっとそうだったから」

 ディープティは保守的なアルンの実家を訪ねるとき、顔をベールで覆う。アルンは無神論者だが、妻の両親を喜ばせるために寺院へ行く。愛の力はどんな困難にも打ち勝てるというが、インドでは伝統の力もまだ侮れない。

[2008年6月 4日号掲載]

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