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インドに翻る同性愛の旗
刑法上の違法行為である同性愛、世間の目は今なお厳しい
世界最大人口の民主国家であることはインドの誇りかもしれないが、同性愛者の権利となると話は別。この国では、同性愛は違法行為。刑法377条で「不自然な性犯罪」と規定されており、10年以下の懲役に処される可能性もある。
だから、首都ニューデリーで6月29日に初めて行われたゲイ・パレードでは、お祭り騒ぎのなかにも、参加者の不満や怒りが感じられた。太鼓が鳴り、スローガンを叫ぶ声が響き、虹色の旗がはためく。この日、パレードは同じインドのコルカタやバンガロールのほか、世界数十都市で行われた。
毎年恒例となっているニューヨークのような都市と違い、インドは保守的な社会だ。参加者も見物する人々も、この手のイベントには慣れていない。参加者のなかには、メディアのカメラの放列や大勢の警察官に素顔をさらすことに、ためらいを感じた者もいた。
虹色の紙の面をつけた26歳の男性はこう語る。同性愛の仲間たちはインターネット上ではとてもオープンだが、街中ではそうはいかない。「人前で手をつなぐことも、愛情を示すこともできない」
同性愛の子供を家に幽閉
今回のパレードは、特定の組織が主催したわけではない。1通の電子メールをきっかけに、ネット上で支持する声が雪だるま式に大きくなったのだ。
レスリー・エステーブスは雑誌編集者で、パレードの実現にひと役買った。エステーブスはパレードのことを「コミュニティーの行事」と表現し、社会からの受容度を高める試みだと語る。
「インドでは物事はいつもこんなふうに進む。こうやってメディアに大々的に取り上げられ、世間の人々は『ゲイ』という言葉が何を意味するかを知る」
その一方で「裁判でも戦わなければ」とエステーブス。同性愛者の親のなかには、子供を家に閉じ込めてしまう人もいるからだ。
パレードの参加者たちは「377条はインドから立ち去れ!」と叫んだ。独立前のインドで、イギリス統治を終わらせることを目的に繰り広げられた「インドから立ち去れ運動」を思い起こさせるスローガンだ。
だが、法改正は問題の一部にすぎないと参加者たちは言う。「ニューデリーは非常に同性愛者を嫌う土地柄だ」とインディアン・エクスプレス紙のフォトジャーナリスト、パロマ・ムケルジーは言う。インドの新聞には、親の決めた伝統的な結婚を強制された同性愛者が自殺したという記事がしばしば載る。同性愛に寛容な土地を求めて国を出る人もいる。
デリー大学に通うデシャン・タッカー(19)は、こうした人々に共感を示す。ゲイであることを公表すれば「見下されて『どうしてゲイなんだ?』と聞かれるのが関の山だ」と彼は言う。
素顔で行進できる日は?
デリー大学には、同性愛者の学生組織は一つもない。「法改正は第一歩にすぎない」とタッカーは言う。「ゲイは基本的な生存権を否定されている」
今回のパレードの取材で話を聞いたかぎりでは、377条違反で警察に逮捕されたという人は1人もいなかった。だからといって、同性愛者が逮捕されないというわけではない。数カ月前にも、公園で「繁殖の体勢」でいたとして、2人の同性愛者の男性が逮捕されている。
「377条の問題点は、警官から金品を強要されたり、嫌がらせを受けたりすることだ」と、バンガロールの弁護士ムイェル・スレシュは言う。レイプや拷問にエスカレートすることもあるとスレシュは指摘する。
イギリス植民地時代に制定されてから150年、377条の歴史にまもなく終止符が打たれるかもしれない。デリー高等裁判所は377条の廃止を求める請願について審理しているからだ。
来年のパレードでは、参加者は安心して素顔をさらすことができるようになるかもしれない。
[2008年7月23日号掲載]