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中国の真実
建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像
中国はもっと借金すべきだ
金融危機に直面して倹約の精神を学ぶ欧米とは逆に、「貸し渋り」の解消で内需活性化をめざせ
国内融資が増えれば内需が拡大し、人民元の値上がりが容認される?
Nicky Loh-Reuters
現在の金融危機から学べる教訓があるとすれば、融資と借り入れのシステムが暴走して制御不能に陥ったときの恐ろしさだろう。欧米は融資の額を減らす必要がある。
もちろん貸し手がほとんどいない現在ではなく、過去10年間に比べての話。この間、銀行は自己資金1ドル当たり26ドルを借り入れ、アメリカの平均的家族は12万1000ドルの住宅ローンをかかえていた。
ただし、この教訓を無視したほうがいい国もある。欧米は新しい倹約の精神を学んでいるが、中国はかつてのシティグループやJPモルガン・チェースといった欧米金融機関のやり方をある程度まで取り入れるべきだ(言うまでもなく、やりすぎは禁物だが)。中国の銀行は融資を増やす必要がある。それも大量に、だ。銀行の融資と融資を受ける個人や企業が増えれば、中国は現在の経済危機に対処しやすくなる。
中国の銀行は規模が大きい。たとえば中国工商銀行は世界第6位の企業で、資産評価額はマイクロソフトを上回る。にもかかわらず、中国の銀行は貸出額が少ない。しかも融資先のほとんどは大企業か国有企業。米証券大手モルガン・スタンレーの調査によれば、08年12月の一般世帯向け融資は全体の7%にすぎない。
この状況は中国政府の意図的な政策の結果だ。中国経済が急成長を続けている間、当局は銀行融資の総量規制を実施してインフレを抑え、物価を安定させてきた。だが世界経済危機の今、インフレの懸念はなくなった。中国の金融当局は「銀行の足かせをはずす」べきだと、米シンクタンク、外交評議会の経済専門家ブラッド・セッツァーは言う。
セッツァーら専門家によれば、融資規制は想定外の問題をいくつも引き起こした。まず、政府の規制で預金の一部しか融資に回せない銀行は、預金の利息をすずめの涙ほどの額に抑えている。その結果、中国企業は「好景気の時期に相当な荒稼ぎをした」が、利益を銀行に預けず、投資などに回してしまったと、米コーネル大学の経済学者エスワール・プラサドは指摘する。「(投資の)利益率がどんなに低くても、ほぼゼロ(の利息)よりましだからだ」
人民元値上がりも容認
融資規制は一般世帯の家計にも悪影響を及ぼしている。中国人は貯蓄率が高く、収入の4分の1を預金するという推定もある。社会的なセーフティーネットが整っていないことが大きな理由だ。中国では医療費が全額自己負担となる場合が多いため、非常時の資金をためておこうとする傾向が強い。
もし中国がシティグループのようにクレジットカードと融資枠を全国民にばらまけば、こうした貯蓄の必要性は低下する。家計が苦しい世帯は、いざというときにクレジットカードや銀行からの借り入れに頼れるからだ。その結果、消費財の売り上げが増え、減速した経済を再び活性化させるだろう。
中国国内の融資が増えれば、欧米にも恩恵をもたらす可能性がある。中国は輸出産業の競争力をつけるため、長いこと人民元の為替レートを人為的に低く抑えてきた。そのため欧米の製品は大半の中国人には手が出せないほど割高になり、米企業は中国の為替操作に不満の声を上げている。
中国の融資増加はGDP(国内総生産)の3分の1程度だった消費市場の拡大につながり、中国の輸出企業の内需志向を強める。そうなれば当局が人民元の値上がりを容認する可能性が高まり、中国の輸入が増加して米中間の懸案の一つが解決するかもしれない。