最新記事

成長をかけた中国の西部大開発

中国の真実

建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

成長をかけた中国の西部大開発

沿海部の輸出低迷を受けて、経済成長の中心を広大な内陸部へ移す西部大開発プロジェクトが全速で進行中

2009年4月24日(金)18時45分
メリンダ・リウ(北京支局長)

 中国のニュースに詳しい人も、重慶の名前にはなじみがないかもしれない。長江(揚子江)流域に広がるこの地方都市は、産業と物流の拠点として「中国西部への玄関」を名乗る。

 3200万人の住民の70%は小規模農家。1人当たりの収入は増えているが、上海や北京などの大都市には及ばない。それでも重慶や、より小さい多くの内陸部の都市は、中国の景気回復の希望の星だ。すでに重慶は不景気な沿海部だけでなく、中国全土をしのぐ勢いを見せている。

重慶の09年の経済成長予測は12%。欧米の大半の国にとって夢のまた夢であるのはもちろん、中国の国家目標である8%も超える驚異的な数字だ。しかも温家宝(ウエン・チアパオ)首相は、国の目標達成はむずかしそうだと認めている。

 この異例の成長は、主に政府のカネのおかげだ。2年にわたる5860億ドル規模の景気刺激策のうち、60%以上が内陸部に向けられている。なかでも重慶は約340億ドルで、人口1人当たりの額は全国13億人平均の2倍に相当する。重慶と蘭州を結ぶ路線など鉄道や道路の大規模な拡張計画への投資は2200億ドル。長江の港と内陸都市を西方の市場と結び、東の大都市ともつなぐ構想だ。

 これが消費意欲を刺激し、長江の2大貨物である石炭と鉄鉱石の需要を押し上げている。長江の港は09年1月の月間貨物取扱高が半年ぶりに増えた。「重慶は新しい成長サイクルに入っている」と、王鴻挙(ワン・ホンチュイ)重慶市長は予想する。

 数字が王の言葉を裏づける。09年に入り、インフラなど建築部門の投資は08年の同時期に比べて35%増。労働力と不動産価格がまだ比較的低いため、沿海部に工場があった企業が移転している。ヒューレット・パッカードや家電大手の江蘇白雪電器も新しい工場を建設している。

 移転は中国政府のお墨つきだ。政府は国の成長の重心を、輸出経済モデルが崩壊している沿海部から広大な内陸部に移す「西部大開発」を全速力で推進しようとしており、重慶はその中心とみなされている。奥地にある40万以上の村に住む7億5000万人の農民の生活を向上させ、ゆくゆくは彼らを消費者にしようというわけだ。

 その目標は3月の全国人民代表大会でも前面に打ち出された。温首相は、地方の農業と社会計画の予算を20%増の1046億ドルとし、「地方に電子製品を送ろう」という全国運動を加速させてテレビ、携帯電話、パソコンを地方で13%値引きすると発表した。一方で、重慶など内陸部では新しいショッピングセンターや映画館、スポーツセンターなどの娯楽施設が次々に建設されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中