コラム

日本製コンドーム販売「岡本六君子」が利用する、「愛国ビジネス」とは?

2022年08月30日(火)11時52分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
小粉紅

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本を叩けば、中国政府と国民が喜ぶという心理を使用した、ネットビジネスが稼ぐ手段となっている。逆に「中国讃美専門」で稼ぐ、中国在住外国人も増加中。いま、愛国心が美味しい商売に>

中国人だから日本の着物を着るのは有罪だ──江蘇省蘇州市内にある有名な「日本風情街」で先日、日本の浴衣を着て写真を撮った女性が警察に拘束された。

この話はすぐに中国のSNS上で炎上し、「小粉紅」と呼ばれる中国の若い愛国者が警察ではなく、着物の女性を非難した。

着物を着る女性を最も厳しくたたき、民族主義をあおったのがネット界の有名人「愛国大V」の6人だが、皮肉なことに彼らはかつて新浪微博で日本のオカモト製コンドームを宣伝したことがある。6人は人々に笑われた。

「もし中国人が日本の着物を着るだけで有罪だったら、日本のコンドームを売りさばくことも悪質な犯罪ではないか。少子化の中国で日本製のコンドームを販売するなんて、政府の3人っ子政策に違反する亡国の罪だ」と。彼らを「岡本六君子」と揶揄する者もいる。

長年の洗脳教育で、愛国心は中国人の最高の道徳になった。愛国やナショナリズムに関する言論が最もフォロワーを集めやすいので、「愛国商売」はネットで稼ぐ便利な手段になっている。うまく商売するためには、愛国の看板を立て、民族情緒をあおることが何よりも肝心だ。

ネットで反日感情をあおりながらひそかに日本に移住するフリーライター、毎日アメリカを呪いながらアメリカに投資して家を購入した評論家......。

彼らは中国政府の求めや大衆の心理をよく把握している。自らが住む民主主義の国を批判すれば、安全地帯にいながら愛国心も示せる。政府もそれを歓迎し、人民も喜び、広告費も入る。まさに中国における「一石三鳥」の儲けの王道だ。

中国に生きる外国人もそれをよく分かっている。彼らは「洋五毛」と呼ばれる中国賛美専門で荒稼ぎする外国人たち。最近、新浪微博で珍しく1人の日本人男性がその列に加わった。

「中国愛」を自称するその日本人男性は、ほぼ毎日のように上手な中国語の投稿で日本をけなし、中国を持ち上げる。日本のことは「小日本」、「日本列島は古来中国の固有領土である」「天皇と岸田首相を殺したい」と過激な投稿もする。

本気なのか、心の病気なのか、偽の日本人なのか、それとも商売なのか。ただ、その投稿を読むたびとても嫌な気持ちになる中国人もいる、と付け加えておく。

ポイント

大V
微博など中国のソーシャルメディアで、運営者から本人と認証を受けてアカウントに「V」マークを付け、多くのフォロワーやファンを抱えるネット上の有名人のこと。

岡本六君子
清朝末期の政治改革「戊戌(ぼじゅつ)の変法」で、西太后の反撃によって犠牲になった官僚「戊戌六君子」が由来。岡本六君子は金儲けのため「愛国」「反日」「反米」を訴えているとされる。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story