コラム

トランプのコロナ感染に歓喜する中国人の本音

2020年10月31日(土)13時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's True Feelings / (c) 2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<アメリカの不幸を誰より喜ぶのが中国人なら、アメリカへの移民や留学のチャンスを誰よりしっかりとつかむのも中国人>

大型連休の国慶節が10月1日にスタートした直後、アメリカのトランプ大統領が新型コロナに感染したというニュースが世界を駆け巡った。これを聞いて最も喜んだのは大統領選のライバル、ジョー・バイデン候補ではない。海の向こうの中国人だ。

中国のSNS上に「笑える」と感染を喜ぶ声が次から次へと投稿され、テレビ局の取材を受けた中国人女性の「めでたい! めでたい! これは国慶節最高のプレゼント!」「全世界が共に喜ぶべきことだ!」という喜びのコメントが英訳され、ネットで世界に広がった。

19年前の9.11アメリカ同時多発テロでも、めでたい気持ちになった中国人は決して少数派ではなかった。首謀者のウサマ・ビンラディンが英雄視されたほどだ。

「アメリカの不幸」をこんなにも喜ぶなんて、中国人はそんなにアメリカが嫌いなのか? 実はそうとは限らない。先日、2021年に北京と上海で行われる「托福(TOEFL)」の申し込みが行われたが、開始5分で来年1~8月の定員が埋まった。iPhone12の予約もあっという間にいっぱいになった。

結局中国人はアメリカが嫌いなのか好きなのか。実は、この2つの感情は常に中国人の脳内に同居していて全く矛盾しない。

新中国成立以来、共産主義の愛国教育の核心は「反米」だ。毛沢東時代、人々は「米帝国主義がわれわれを滅ぼさんとする考えは消えてはいない」というプロパガンダをよく耳にした。習近平時代にも「アメリカは中国の発展を封じ込めようと意図している」という言い方を聞く。自分たちが貧しい時は全てアメリカのせい、豊かになると中国政府のおかげ。生活が苦しくなると反米か反日を始める。

しかし政治的に反米な中国人も、もしアメリカへ移民や留学できるチャンスがあれば必ず誰よりしっかりとつかむ。ニューヨークの自由の女神は中国人にとっても夢と勇気、さらに人生の出世と家族の繁栄の象徴だ。習近平主席は最近よく「人類運命共同体」を唱えているが、中国人の本音はまだ伝統的な「血縁運命共同体」。中国人ほど建前と本音を見事に使い分ける国民はいない。「商売人」のトランプも顔負けだ。

【ポイント】
托福
トゥオフー。英語を母語としない人向け英語能力測定試験TOEFLの中国語読み。英米圏への留学が出世につながることもあり「おかげさまで」という意味の中国語が当てられた。

人類運命共同体
自国だけでなく他国にも配慮し共に発展することを目指す価値観。憲法にも盛り込まれたが、南シナ海の力による現状変更などとの矛盾を指摘されている。

<本誌2020年11月3日号掲載>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story