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場所も気候も違うのに、この写真には日本の田舎と共通点がある
ジョージアの持つ多様性も、彼女の作品の大きな魅力になっている。多くの作品はジョージア国内にあるアゼルバイジャン人の村で撮られたものだ。住民たちはイスラム教徒である。それは、単に多様性を表すだけでなく、民族の興亡と大移動を経験してきたコーカサスの複雑な歴史と地政学も内包することになる。
ちなみに、アゼルバイジャン人の村の住民の多くは、ロシア語もジョージア語も話せず、撮影時を含め、身振り手振りでコミュニケーションを取るという。それも楽しみの1つだと、グリガラシュヴィリは語った。
とはいえ、こうした多様性とロマンチック性のみが彼女の作品の焦点ではない。それだけなら、彼女の写真がジョージアを超えて高く評価されることはなかっただろう。なぜなら、詩的な写真を追い求める才能ある写真家で、コーカサス周辺で活動している者はたくさんいるからだ。
グリガラシュヴィリに名声をもたらしたのは、素朴な人々と自然讃歌の描写の裏にある、もう1つのテーマだ。ジョージアの山村や農村の多くは――日本の東京一極集中現象と同じかそれ以上に――首都トビリシに一極集中となっている同国において、凄まじい速さで過疎化にさらされているのである。
実際、日本の四国の大きさしかないジョージアで、すでに過去2年ほどで200の村が消滅したという。この過疎化現象を、完全に手遅れるなる前に人々に知ってもらいたい、とグリガラシュヴィリは語る。
ただその難しさも、彼女はよく分かっている。グリガラシュヴィリ自身、田舎の生活が困難ゆえ、生きるためにトビリシに出てきた1人だった。
だが、そうした原罪的な感覚もはらむがゆえに、彼女が切り取るジョージアの田園風景は普遍的な原風景となって我々の脳裏に響いてくるのかもしれない。
Note:
原風景とは、現実そのものの風景だけでなく、心象風景とも重なることもある。
今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Natela Grigalashvili @natela_grigalashvili
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