コラム

場所も気候も違うのに、この写真には日本の田舎と共通点がある

2018年01月12日(金)11時50分

ジョージアの持つ多様性も、彼女の作品の大きな魅力になっている。多くの作品はジョージア国内にあるアゼルバイジャン人の村で撮られたものだ。住民たちはイスラム教徒である。それは、単に多様性を表すだけでなく、民族の興亡と大移動を経験してきたコーカサスの複雑な歴史と地政学も内包することになる。

ちなみに、アゼルバイジャン人の村の住民の多くは、ロシア語もジョージア語も話せず、撮影時を含め、身振り手振りでコミュニケーションを取るという。それも楽しみの1つだと、グリガラシュヴィリは語った。

とはいえ、こうした多様性とロマンチック性のみが彼女の作品の焦点ではない。それだけなら、彼女の写真がジョージアを超えて高く評価されることはなかっただろう。なぜなら、詩的な写真を追い求める才能ある写真家で、コーカサス周辺で活動している者はたくさんいるからだ。

グリガラシュヴィリに名声をもたらしたのは、素朴な人々と自然讃歌の描写の裏にある、もう1つのテーマだ。ジョージアの山村や農村の多くは――日本の東京一極集中現象と同じかそれ以上に――首都トビリシに一極集中となっている同国において、凄まじい速さで過疎化にさらされているのである。

実際、日本の四国の大きさしかないジョージアで、すでに過去2年ほどで200の村が消滅したという。この過疎化現象を、完全に手遅れるなる前に人々に知ってもらいたい、とグリガラシュヴィリは語る。

ただその難しさも、彼女はよく分かっている。グリガラシュヴィリ自身、田舎の生活が困難ゆえ、生きるためにトビリシに出てきた1人だった。

だが、そうした原罪的な感覚もはらむがゆえに、彼女が切り取るジョージアの田園風景は普遍的な原風景となって我々の脳裏に響いてくるのかもしれない。

Note:
原風景とは、現実そのものの風景だけでなく、心象風景とも重なることもある。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Natela Grigalashvili @natela_grigalashvili





ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け

ワールド

ポーランド家屋被害、ロシアのドローン狙った自国ミサ

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story