コラム

日本のコロナ危機が示した、機械翻訳依存の危うさと専門用語の日英「誤差」

2020年04月30日(木)18時05分

日本語では感染者数の「爆発的な増加」あるいは「2~3日で倍になること」を示しているようだが、英語では行き過ぎることを指し、人口が環境の許容量を超過すること(例えば、感染者の数が病院のベッド数を上回る)という意味と、集団免疫に必要とされる人口比率を超えるレベルの感染拡大という意味がある。前者は英語で一般的な使い方で、後者は感染症学の専門用語。いずれも日本での使い方と少し異なるので混乱を招く。

一方、各国でコロナ対策のカギとなっているsocial distancingは「対人距離の確保」を意味し、日本語では「社会的距離」と訳されるが定着しているとは言い難い。日本の政治家が要請する「自粛」は外国人には分かりづらいだろうし、厚労省が呼び掛ける「3密(密閉・密集・密接)」も、日本独特の対策だ。「3Cs(closed spaces, crowded places and close-contact settings)」として英語でも発信しているが、他国にない考え方のため外国人が当惑してしまう。

要するに、これらは全て日本人に向けたコミュニケーションとしては効果的かもしれないが、結果として、外国人にとってはそうではないということだ(ただし、河野太郎防衛相がツイッターで指摘していたように、カタカナの外来語は日本人をも混乱させていると私は思うが)。

日本の対策「批判」の原因に

今回のような世界規模の危機に直面した際は、国内向けだけでなく、国境を超えるコミュニケーションも重要だ。しかし日本では、言語の壁がそれを妨げてしまっているのではないか。外国人からすると、英語での効果的な発信が少ないため、日本政府が何を考えているか、どう対策しているかが把握しにくい。日本のクラスター戦略についても国外ではあまり理解されていないと言える。

日本人の間では、日本が他国と比べてコロナの感染者や死亡者が少ないことに関してプライドを持っている人が少なくないようだ。もしPCR検査数を絞る方針など、日本の対応が優れていることがその理由ならば、他国のためにその情報をもっと英語で発信してもらいたい。

日本に住む人の大多数が日本人なのに、なぜ英語での情報発信が重要なのかと思う人がいるかもしれない。これには複数の理由がある。

プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ自動車対米輸出、4・5両月とも減少 トランプ

ワールド

米農場の移民労働者、トランプ氏が滞在容認 雇用主が

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story