コラム

日本のコロナ危機が示した、機械翻訳依存の危うさと専門用語の日英「誤差」

2020年04月30日(木)18時05分

ILLUSTRAION BY ANDREY RUDOMETOV/SHUTTERSTOCK

<「オーバーシュート(over-shoot)」は外国人の混乱を招き、「自粛」も「3密」も外国人には分かりづらい――。日本に住む人の大多数が日本人でも、英語での情報発信が重要な理由とは? 本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

危機の時には、新しい情報を流す必要が生じる。それも、迅速に発信しなければならない。新型コロナウイルス危機に見舞われている現在であれば、日本に暮らす外国人、あるいは外国のメディアや政府に向けて、日本の感染症対策に関する情報を英語でも正しく発信していく必要がある。日本はそれができているか。
2020050512issue_cover_200.png
そういうときは、思わず機械翻訳に頼りたくもなるのだろう。グーグル翻訳などのサービスは便利だし、無料で利用できるので、自治体や企業のウェブサイトに機械翻訳を取り入れるのは一番簡単な方法に思える。しかし通常時にも増して、危機の時には情報の正確さが大切だ。

機械翻訳は以前と比べてかなり精度がよくなったが、まだ完璧とは言えない。とりわけ日本語には、曖昧な表現があったり文に主語がなかったりするなど、機械翻訳をまごつかせてしまいがちな特徴がある。

その一例が、厚生労働省のウェブサイトだ。機械翻訳が使われており、結果としてnew-style coronavirusやstay rekiといった不自然な英語が多く入ってしまった(批判を受け現在は改善された)。英語の報道を見ている人なら分かると思うが、「新型」コロナウイルスをnew-styleとは書かないし、「滞在歴」をstay rekiとするのはあり得ない。

ほかにもコロナウイルス関連の貼り紙や看板では、妙な英語をしばしば見掛ける。「This hands dryer will stop using for awhile」とか「Sold out wears a mask at this place」など、日本語を理解しない外国人には意味が正しく伝わらない可能性が大きい。

これらが機械翻訳によるものか、ネイティブチェックを求めなかった結果かは分からない。だが、分かりにくい英語だとメッセージが伝わらず、外国人は当惑し、政府の対策の邪魔をしてしまったり、危険な行動を取ってしまうかもしれない。今回の失敗を踏まえ、日本の組織には機械翻訳の利用をやめ、翻訳者など専門家の手を借りて英語で発信する準備をしておくことを期待したい。

通じない「オーバーシュート」

コロナ危機でもう一つ明らかになったのは、ある種の「和製英語」が意思疎通を妨げる場合があることだ。英語圏に存在しない造語の和製英語ではなく、日本でしか通用しない「和製」の意味を持つ英単語だ。

例えば、日本の政治家や医療専門家は「オーバーシュート(overshoot)」という言葉を頻繁に使うが、この言葉は英語圏とは異なるニュアンスで使われている。

プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=急反発、AI関連銘柄が高い

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、一連の中銀決定会合に注目

ワールド

米・イラン、ここ数日で直接対話再開か=報道

ワールド

EU、紅海任務のホルムズ海峡への拡大に慎重=カラス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story