コラム

「愛国」という重荷を背負った中国国産旅客機

2017年05月10日(水)17時30分

<中国初の国産旅客機のニュースにネットでは称賛が溢れているが、エンジンシステムなど主要な部分はアメリカ製。それでも国産と宣伝される愛国主義こそが最大の「重荷」>

中国商用飛機有限公司(コマック)の開発する旅客機C919は5月5日午後、上海浦東空港で初飛行に成功した。これは、業界の二大巨頭ボーイングとエアバスに対する中国航空工業界の挑戦である。そして、かつての「中国商業航空の夢」が数十年後にようやく迎えた夜明けでもある。

今回、どの中国メディアも「中国初の国産旅客機が初めて公開飛行した」と報じた。しかし中国共産党は1970年、「運10」という旅客機プロジェクトを許可。独自に研究を重ね、1980年に「運10」の初飛行に成功した。その後、何度も飛行テストは行われたが、この後に生まれた「つくるより買う、買うより借りる」という風潮のせいで、最後は予算不足を理由に開発停止になり、研究開発チームは解散した。

上海航空機製造有限公司の工場エリアには、今も1機の白い「運10」旅客機が置きっぱなしにされている。飛行機の前には「永遠に諦めない」と刻まれた石碑があり、当時の技術者たちの無念の思いを伝えている。

今回の試験飛行したC919は、150座席以上の中・短距離旅客機だ。このクラスの市場は巨大で、主要なライバルはボーイング737とエアバスA320の主力2機種。初飛行したばかりのC919もすでに570機の注文を獲得しているが、その大部分は中国の航空会社からのものだ。この「業績」は中国政府の命令あるいは圧力による成果のようにも見える。

すでに中国の飛行許可は得ているが、米連邦航空局(FAA)と欧州航空安全機関(EASA)の耐空証明を獲得しなければ、国際市場への道は開けない。

C919の初飛行成功後、中国人の愛国主義的感情に再び火が付き、ソーシャルメディアは称賛の声一色だった。共産党の絶え間ない教育によって、「百年の遅れ」という屈辱の近代史を背負わされてきた中国人は、今回の試験飛行で晴れ晴れとした気持ちになったことだろう。

しかしネット上の批判的な人々は、この旅客機の国産化率が実は高くなく、最も中心となる部品――エンジンなどのシステムがアメリカで生産されたか、あるいは中国と外国企業の協力で完成したことを知っている。しかしC919の機体と空力形状はほとんどすべて中国製だ。大型民間旅客機の開発と製造は簡単ではなく、外国製部品を組み立てたからと言って外国製だとも説明できない。それ故、C919は共産党の愛国主義宣伝に使われている。

外国製部品を組み立ててつくられた製品なのか中国オリジナルなのかに関わらず、C919は乗客と貨物以外の任務を積載している――愛国主義の宣伝だ。私はこれこそ、C919が離陸するときの最大の重荷だと思う。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ビル・ゲイツ氏、気候変動戦略の転換求める COP3

ワールド

石油価格、過剰な生産能力が制裁の影響を限定=IEA

ビジネス

HSBC、第3四半期税引き前利益14%減 訴訟関連

ワールド

ベセント氏、健全な金融政策策定が重要な役割 日米財
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story