コラム

安くて便利なデフレ・ジャパン、暮らしやすくて最高......なんだけれどね

2022年08月16日(火)17時05分

もちろん、クオリティーの向上は、技術の進化、製造・販売・流通における運営手法の進化とグローバリゼーションのおかげであって、他国でも起きていることだ。でも日本では、ほとんど値段が変わっていないのに改善の恩恵を受けられている。

また、デフレの間も日本ならではの「暮らしの付加価値」が保たれている。

一番分かりやすいのは治安。どの町でも、どの時間帯でも、一人でも、街を歩いたり地下鉄に乗ったりATMから大金を引き出したりしても怖くない。暴力、スリ、空き巣、強盗などなど心配がほとんどない。僕は日本で8回ぐらい財布を落としているが、毎回返ってくる! しかも中身が減っていない! 少し増えて返ってくるぐらいだ。

「日本ランド」は税金も安い

日本の皆さんが「ゼロ円」で手に入れているこの安心感は、多くの国ではお金のかかるもの。実際、アメリカで治安のいいエリアに住みたい人はより高い家賃や地価を払うことになりがちだ。

近所を塀で囲って、入り口に門番を常備するゲーテッド・コミュニティーも多い。しかし、ゲーテッド・コミュニティーの空き巣発生率は普通の住宅街より33%低いというデータはあるが、それでも単純計算で日本の平均の5倍以上! アメリカ人は治安を確保したいなら、日本の家に住むべきだ。アメリカの会社までの通勤は大変だけど......。

数値化はしづらいが、日本暮らしの「副価値」はほかにもたくさんある。

ごみが落ちていない。人の身だしなみも、車の外観もきれい。店員が優しくて丁寧(それもチップなしで!)。みんな倫理観が強くて、言葉遣いも適切。乗り物は時刻表どおりに運行し安全だ。タクシーの運転手だって白い手袋を着けてるよ! ハンドルが貴重品なのかな......。

多くの国では、こんなに居心地のいい環境は高級リゾートやテーマパークなどの有料施設に限る。

「日本ランド」では入場料に当たる税金は払うが、それも比較的低い税率。それでも、道はきちんと舗装されている。学校教育のレベルが高い。救急車がすぐ来る。皆保険があって医療費も安い。つまり、公的サービスのコストパフォーマンスが素晴らしい。

ちなみに、アメリカの救急車は有料だ。1回乗ると平均で10万円以上。請求書が届いたときにもう一回救急車を呼ぶことになりそう! しかも、乗っても安心ではない。救急車が絡んだ交通事故は毎年約1500件に上り、平均33人が事故で死亡している。そういえば、救急車で事故った場合いったい誰を呼ぶんだろう?

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story