コラム

日本に必要なワクチン接種の加速、アメリカはどうやった?

2021年05月20日(木)18時20分

アメリカは米軍も動員して急ピッチでワクチン接種を進めた Marco Bello-REUTERS

<あらゆる面で新型コロナワクチン接種の遅さが日本の足を引っ張っている。ではアメリカは「コロナ劣等生」から「ワクチン成功国」にどうやって変わった?>

立場が逆転してしまった。

去年2月あたりから、僕はアメリカにいる親戚、友達と連絡を取るたびに「大変だね。がんばってね」と、彼らを励ましていた。世界でもまれに見る「要請ベース」の新型コロナウイルス対策が案外に成果を出していた日本から、苦戦していた母国を見て憐れんでいたのだ。友達からコロナ禍の苦しい実体験を聞いて、「アメリカ人はかわいそうすぎる」と同情すると、「おめえもアメリカ人だろうが!」と、いつも怒られていた。

しかし最近アメリカは、1日30万人以上の新規感染者が出る世界一の「コロナ失敗国」から、1日400万人以上のワクチン接種が出来る世界一の「ワクチン接種成功国」に様変わりしている。すでに人口の約半数がワクチン接種を済ませて、新規感染者がピーク時の10分の1ほどに落ちている。

おかげで国民生活も元に戻りつつある。会食も、州間移動や海外旅行も、第2の国技と言われる「濃厚接触」もできるようになっている。CDC(米疾病対策センター)が「ワクチン接種済みの人は室内でもマスク着用する必要なし」と発表したことを受け、大勢の人が1年以上ぶりにマスクを脱ぎ笑顔を見せあっている。(もちろん、医療現場、公共交通機関、銀行強盗、舞踏会、なまはげなど、まだマスク必着な場面はあるが。)

そんなアメリカを今見て僕は羨んでいる。しかし誇らしくなり「やればできるね。さすがわが国!」と、喜びを友達と分かち合おうとすると、「おめえは日本側だろう!」と、以前の傲慢さを材料に攻撃される。

まあ、友達も心の狭い人なだけの話だ。
 
僕は日本びいきであるのは間違いない。テレビでも、このコラムでも、いろいろと願いや希望を伝えてきたが、常に「愛のあるダメ出し」を心掛けている。その上、今は国民全員が一丸となって闘わないといけない「見えない強敵」と対戦中。こんなときに、政府を厳しく批判しすぎてしまうと、国民の政府に対する不信感や怒りが高まり、正しい「要請」をも聞いてくれなくなるおそれもある。だから、コロナ中はいつもよりも少し遠慮している。僕、強大な影響力があるからね。

一番確実な感染対策は?

しかし、今は呼び掛けのボリュームを振り切ることにした。今までは「検査数が少ない!」、「医療従事者、病床の確保が足りない!」、「給付金の申請がわかりづらい!」、「経済対策が緩い!」、「オリンピックのコロナ対策が不安だ!」などと、専門家の指摘を拾ってさまざまな不満を、常識的な音量で発してきた。しかし、今は「リンダリンダ」のサビぐらいの大音量であることを叫びたい。

いくよ......ワクチン接種が遅い!!! 

これは急がないと本当にまずい気がする。国民の間に「自粛疲れ」が目立ち、緊急事態宣言の効果は以前ほど確認できていない。みんな外出を控えているつもりだが、そもそも曖昧だった「不要不急」の定義がだんだん広くなってきている。今ハーラン家では「天かすの買い出し」も「要で急」と認定している。ここまで何とか成功していた「日本モデル」の崩壊が目の前まで迫ってきている。

では、一番確実な感染対策は? ワクチン接種!

昨年度の実質GDPはマイナス4.6%だった。今年度に入ってすぐ緊急事態宣言が発令され、それによる経済損失は少なくとも1兆7600億円と、野村総合研究所は試算する。飲食店、旅行代理店だけではなく、経済全体が疲弊している。

日本の今年1~3月期のGDP伸び率はマイナス5.1%だったが、3月末までに75%の高齢者がワクチン接種できたアメリカのはプラス6.4%。つまり、一番効果的なの経済対策は? ワクチン接種!

日本で重症者の人数が新記録を更新し続けるなか、ICU(集中治療室)の病床の使用率も高く、医療従事者も疲れ果てている。

では、医療体制のひっ迫を解消する決定的な策は? ワクチン接種!

感染力が強い変異株が世界各地で飛び交っている時期に、外国から何万人もの来日が見込まれるオリンピックの開催を、多くの国民が反対している。

では、アスリート、関係者、会場のスタッフ、開催地の市民の健康を守る一番の手段は? はい、ご一緒に! ワクチン接種!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story