日本人だからこそ描けた物語...「本当の日本」が世界の心に刺さったアニメ『ONI』
An Authentic Voice of Japan
おなり(手前)は父なりどんと暮らすおてんば娘 COURTESY OF NETFLIX ©2022
<妖怪や神々の世界を舞台に少女の成長を描く『ONI~神々山のおなり』は、ピクサー出身の2人が興したアニメスタジオの夢の結晶>
正真正銘の日本の声を届けたい──。
アニメ『ONI~神々山のおなり』(ネットフリックスで配信中)を作るに当たり、堤大介監督が強く抱いたのはそんな思いだった。
10月21日に配信を開始した『ONI』は、ヒーローになって悪い鬼を退治したいと奮闘する少女おなりが主人公(声の出演は英語版がモモナ・タマダ/日本語吹き替え版は白石涼子)。
日本の民話や神話がベースなだけあって、天狗やかっぱや雷神が脇を固める。おなりが住む村は鬼の襲来に脅かされ、子供たちは自分のスーパーパワーを目覚めさせようと日々修行に励んでいる。
ハリウッドの視点に合わせるのではなく、可能な限り日本人らしい物語を紡ぎたかったと堤は語る。
「この業界に入って二十数年。生まれも育ちも日本の僕は、アメリカで外国人として、日本人としてアニメの仕事をしながら、いつか日本の文化をテーマに作品を作りたいと夢見ていた。日本で育った人間の目を通し、ハリウッドではなく日本人の声を通して語られる作品がもっとあっていいと思う。そうした企画にネットフリックスが関心を示してくれたときは本当に興奮したし、心から感謝している」
堤と共にエグゼクティブプロデューサーを務めるのが、日系アメリカ人のロバート・コンドウ。2人が日米を拠点にアニメスタジオ「トンコハウス」を立ち上げたのは2014年のことだ。それまで2人はピクサーのアート部門で『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』といったヒット作を手掛け、その経験を生かそうと独立。初の共同監督作『ダム・キーパー』は、15年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた。
コンドウによれば『ONI』の制作はアニメの世界的大手であるピクサーの頃とはスケールが違う一方で、共通点も多かった。「根っこの部分は似ていた」と、彼は言う。
「キャラクター中心」の作品作りはピクサー譲り
「ピクサーを退社するとき、僕たちはいわば彼らの教科書を何ページか破り取って失敬した。その1つが、キャラクター中心の作品作りだった。スタッフがキャラクターと波長を合わせ、自分たちにしか伝えられない物語の意義を掘り下げる姿勢も、ピクサー譲りだ。キャラクターとスタッフと声優の波長が合うまで、たっぷり時間をかけた」
「アニメ、とりわけテレビアニメはスクリーンに映るもの全てが手作業。だからこそ美術や照明や一つ一つの場面を通して、観客の共感を呼ぶ世界を一からつくることができる。その点もピクサーと変わらない」
トンコハウスが目指すのは「シンプル」なキャラクターだが、おなりや父親のなりどん(クレイグ・ロビンソン)や天狗(ジョージ・タケイ/井上和彦)の肉付けにはかなり苦心したと堤は振り返る。