日本人だからこそ描けた物語...「本当の日本」が世界の心に刺さったアニメ『ONI』
An Authentic Voice of Japan
20年8月に制作を開始し、コロナ禍のため作業はリモートで進めた。一見ストップモーションアニメのようだが、「全編CG」だとプロデューサーのサラ・サンプソンは説明する。
「ストップモーションと誤解されるたびに、最高の賛辞と受け止めている」と、彼女は言う。「実際、大介の希望で、最初はストップモーションとして構想した。でも企画を進めるうちに、この壮大なストーリーには別の手法が必要だと気付いて、CGに変えた」
脚本には岡田麿里も加わった。岡田は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『さよならの朝に約束の花をかざろう』などのアニメ作品で知られる売れっ子脚本家にして監督。まさか参加してくれるとは思わなかったと、堤は振り返る。
「会う前から、僕もロバートも彼女の大ファンだった。トンコハウスのアニメは人間の光と闇に切り込む。白か黒か、善か悪かで人は割り切れない。僕らは常にキャラクターの心に分け入ってきたし、岡田もそんなふうにキャラクターを造形する。だから彼女の作品に引かれた」
昔話に現代をリンクする
妖怪と神々の世界はやがて現実の世界と出合う。単なる昔話で終わらせないように心を砕いたと、堤は言う。
「日本の民話で鬼はいつも悪者。そこにハッとして、『ONI』のコンセプトが生まれた。一説によれば、鬼は日本に流れ着いた外国人だったという。顔立ちや肌の色が異なり体の大きい外国人を、日本人は『悪い奴に違いない。怪物だ』と決め付けた」
「そうしたメンタリティーは今でも消えていない。人類が前進しても、その思考が進化するとは限らない。自分の知らないこと、なじみのない人々、理解できない異文化を僕たちは今も怖がる」
「だから民話を僕らがいま生きているこの世界にリンクさせるのは、大事なことだった。観客が日常の一部と捉えられる物語にしたかった」
サンプソンは、観客が『ONI』から「パワーをもらってくれれば」と語る。「大介の言うとおり、世の中には白か黒かで割り切れるものなど何もない。恐怖心からどちらか一方にくみするのをやめ、勇気を出して恐怖の向こうに目を向けてほしい」
『ONI』は4話で完結したが、トンコハウスはこの世界に戻ることに前向きだ。「今回採用しなかったストーリーを含め、アイデアはまだたくさんある」と、堤は言う。
「ロバートとも、そうしたアイデアについてよく話している。ストーリーを練ったりキャラクターをデザインしたりするときは、スクリーンに映らないストーリーやキャラクターのことも考えている。今回の延長線上にあるそうした物語も、きっと楽しんでもらえると思う。いつか機会があれば、『ONI』の世界をもっと広げたい」