最新記事
シリーズ日本再発見

日本人だからこそ描けた物語...「本当の日本」が世界の心に刺さったアニメ『ONI』

An Authentic Voice of Japan

2022年11月10日(木)18時01分
ロクシー・サイモンズ

221115p58_ONI_02.jpg

子供たちは鬼の襲来に備え学校で修行中 COURTESY OF NETFLIX ©2022

20年8月に制作を開始し、コロナ禍のため作業はリモートで進めた。一見ストップモーションアニメのようだが、「全編CG」だとプロデューサーのサラ・サンプソンは説明する。

「ストップモーションと誤解されるたびに、最高の賛辞と受け止めている」と、彼女は言う。「実際、大介の希望で、最初はストップモーションとして構想した。でも企画を進めるうちに、この壮大なストーリーには別の手法が必要だと気付いて、CGに変えた」

脚本には岡田麿里も加わった。岡田は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『さよならの朝に約束の花をかざろう』などのアニメ作品で知られる売れっ子脚本家にして監督。まさか参加してくれるとは思わなかったと、堤は振り返る。

「会う前から、僕もロバートも彼女の大ファンだった。トンコハウスのアニメは人間の光と闇に切り込む。白か黒か、善か悪かで人は割り切れない。僕らは常にキャラクターの心に分け入ってきたし、岡田もそんなふうにキャラクターを造形する。だから彼女の作品に引かれた」

昔話に現代をリンクする

妖怪と神々の世界はやがて現実の世界と出合う。単なる昔話で終わらせないように心を砕いたと、堤は言う。

「日本の民話で鬼はいつも悪者。そこにハッとして、『ONI』のコンセプトが生まれた。一説によれば、鬼は日本に流れ着いた外国人だったという。顔立ちや肌の色が異なり体の大きい外国人を、日本人は『悪い奴に違いない。怪物だ』と決め付けた」

「そうしたメンタリティーは今でも消えていない。人類が前進しても、その思考が進化するとは限らない。自分の知らないこと、なじみのない人々、理解できない異文化を僕たちは今も怖がる」

「だから民話を僕らがいま生きているこの世界にリンクさせるのは、大事なことだった。観客が日常の一部と捉えられる物語にしたかった」

221115p58_ONI_03.jpg

かっぱやからかさお化けなど妖怪が総出演 COURTESY OF NETFLIX ©2022

サンプソンは、観客が『ONI』から「パワーをもらってくれれば」と語る。「大介の言うとおり、世の中には白か黒かで割り切れるものなど何もない。恐怖心からどちらか一方にくみするのをやめ、勇気を出して恐怖の向こうに目を向けてほしい」

『ONI』は4話で完結したが、トンコハウスはこの世界に戻ることに前向きだ。「今回採用しなかったストーリーを含め、アイデアはまだたくさんある」と、堤は言う。

「ロバートとも、そうしたアイデアについてよく話している。ストーリーを練ったりキャラクターをデザインしたりするときは、スクリーンに映らないストーリーやキャラクターのことも考えている。今回の延長線上にあるそうした物語も、きっと楽しんでもらえると思う。いつか機会があれば、『ONI』の世界をもっと広げたい」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中