開発に10年かけた、シャンパン級のスパークリング日本酒
シャンパン同様に「瓶内二次発酵」させ、にごりのない透明な日本酒にするのは難易度が高いためだ。また、シャンパンでは発酵を促すために糖を添加するが、日本酒でそれを取り入れてしまうと税法上はリキュールに分類されてしまう。
クオリティはシャンパン級の日本酒、そこにこだわる戦いは10年間、700回の試作に及んだ。永井自身フランスに渡り、本場シャンパーニュでも研究した。
永井酒造のスパークリング日本酒「MIZUBASHO PURE(水芭蕉 ピュア)」が完成したのは2008年のこと。グラスの底から真っ直ぐ立ち上る細やかな泡、アルコール度数を13度に抑えたすっきりとした飲みくち。べたつきやクドさは感じられず、旨みと酸がシャンパンのように口内に広がる。それでいて、しっかりと日本酒の余韻は残る。
国内外のシェフやソムリエにもその評判は伝わり、京都の吉兆、フランスやスペインの三ツ星レストランでも食前酒として採用されるに至った。
もっとも、フランス料理と向こうを張る、ワインのような日本酒のラインナップを考えれば、食前酒の完成はまだスタートにすぎない。その後、永井酒造は肉料理用の熟成日本酒「VINTAGE SAKE」やデザート用に濃厚な甘さで仕立てた食後酒向けの「DESSERT SAKE」をリリース。料理一皿一皿に合わせた日本酒を提案する「NAGAI STYLE」を確立した。
自らの目標としてきた、日本酒の可能性を広げる点では一定の成果を収めた永井。ただ、日本酒業界全体で見れば、それは文字通りまだ点にすぎない。日本酒の可能性や魅力を広めていくには、これを面にして1つの型に仕上げていく必要がある。
永井は昨年11月、数年前から温めてきた日本酒振興のための組織「awa酒協会」を立ち上げた。水芭蕉Pureと同様の製法で作られたスパークリング日本酒「星の輝(かがやき)」を手掛ける山梨県の山梨銘醸、八海山で知られる新潟県の八海醸造など6蔵元と連携(今年2蔵が加わり現在は計9蔵)。シャンパン方式に準拠したスパークリング日本酒を認定・普及させるための組織となる。
awa酒協会参加の蔵元のうち、スパークリング日本酒を発売済みなのは4蔵に留まる。それだけ開発の難易度が高いということでもあるが、今年4月には残る蔵元も合わせ、全蔵元から認定スパークリング日本酒がお披露目される予定だ。
世界に広がる和食文化とともに、日本酒も飛躍できるのか――。スパークリング日本酒の成否が、その一翼を担うことになるかもしれない。