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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
鍵田&佐藤のフラメンコ世界「愛こそすべて」
以前に弊誌特集『世界が尊敬する100人』にも登場した鍵田真由美・佐藤浩希が主催するフラメンコ舞踊団「ARTE Y SOLERA(アルテ・イ・ソレラ)」の公演を先日見に行った。公演タイトルは「愛こそすべて~完全版~」で、「スペインの歌謡曲」に合わせて踊るというちょっと面白い趣旨だ。
どの歌も「愛」がテーマ。「私は彼の人生の一部で、彼は私の影だった♪♪」とか、「君との思い出は日に日に甘くなっていく♪♪」とか、こてこての歌詞に合わせての群舞あり、ソロありの充実の1時間半。最初は美空ひばりやテレサ・テンばりの世界にすんなり入り込めなかったが、途中、鍵田の明るいソロあたりで一気に引きこまれた。
ⓒ川島浩之
佐藤の陽気な人柄、鍵田の凛としたたたずまい――正反対の雰囲気を持つ2人だが、その「陰と陽」の感じが舞台の上でぶつかり合い、独特のエネルギーを放っている。フラメンコと能、フラメンコとジャズといった独創的なコラボレーションを実現してきた2人(もともと鍵田が佐藤の師匠で、今は夫婦である)は互いに支え合い、刺激し合って、枠にとらわれない表現を続けながらこれからも日本のフラメンコ界を引っ張って行ってくれそうだ。
個人的にバレエもよく見に行くが、あちらは圧倒的な形式美を大切にする芸術。例えば、トゥシューズで立ったときの甲の出方とか、「膝を入れる」立ち方とか、胸の閉じ方とか、とにかく美しく見せるために細かい点まで重視する。そして体の重みを感じさせないよう、妖精のように宙を舞う(「地に足のつかない」と言おうか)。現実を忘れさせてくれる、夢のような世界だ。
それに対してフラメンコはどっしりと大地に足をつけ、肉体の奥底からわき上がる抑えきれない感情をコントロールするような踊り。型にはまらず、一人ひとりのそれぞれ違う「生」を表現するようなものだ。音楽もフラメンコギターは別にして、カンテ(歌)やパルマ(手拍子)、サパティアード(靴音)と、人間の体から発せられる音が主役になると言っていい(ギターが加わったのは19世紀になってからのようだ)。その力強さが、たまらなくいい。
今回、会場に白髪交じりの男性の姿が目立ったのが印象的だった。バレエでは絶対にあり得ないことだ。そのあたりもフラメンコ独特の人間くささ、泥くささゆえなのだろう。
「愛こそすべて~完全版~」は、来年2月22日~3月9日にスペインのヘレスで開催される第17回フェスティバル・デ・ヘレスに招待公演として参加するそうだ(スペイン語の公演タイトルは『iAMOR, AMOR, AMOR!』)。「ARTE Y SOLERA」は04年に外国人として初めて正式招待され、今回が2度目の出場になる。
日本での来年の公演はまだ発表されていないが、12月20日(木)~26日(水)には舞踊団を撮った川島浩之の写真展が開かれるそうだ。興味のある方は是非。
バレエで言えば、現在公開中の映画『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』がとてもいい。若者向けのバレエコンクールの舞台裏を追ったもので、登場する子供たちのすごさはもちろんだが、親の協力ぶりやエゴ、紛争国や途上貧しい国の厳しい現実といった世界情勢も垣間見せる、深みのあるドキュメンタリーに仕上がっている。バレエファンでない人にも、かなりお勧めです。
――編集部・大橋希
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