コラム

古田敦也は最高の野球ファンだった

2010年11月04日(木)11時20分

 米メジャーリーグでは今月2日、サンフランシスコ・ジャイアンツがワールドシリーズ制覇を決めました。ジャイアンツのイメケン長髪エース・リンスカムや、広島カープでも活躍したテキサス・レンジャーズのルイス投手など、日本の野球ファンにとっても見どころの多いシリーズだったと思います。

 もちろんアメリカ国内の注目は非常に高かったようです。本誌11月10日号のパースペクティブにも、中間選挙を争う政治家たちがワールドシリーズと書かれた野球ボールに押しつぶされる様子を描いた漫画が掲載されています。アメリカでの野球人気は相変わらず根強いということでしょう。

 一方の日本では、中日ドラゴンズと千葉ロッテマリーンズが日本シリーズを戦っている真っ最中。ただテレビでの全国中継がない試合があるなど、プロ野球ファンとしては少し寂しい状況になっています。

 とはいえ、この時期になってもまだまだ野球熱が冷めない野球ファンは両球団のファン以外にもたくさんいます。そしてこのプロ野球人気が今も続く背景には、各球団や選手会などが以前からファンサービスに力を入れてきたという地道な努力も一因としてあると思います。

 私もドラフト会議の動向や各球団が行う補強など、ひいきのチームがシーズンを終えた今も野球ニュースを欠かさずチェックする1人。そんななか、元ヤクルトの古田敦也さんが朝日新聞出版から発売した『フルタの方程式 バッターズ・バイブル』の発売記者会見に参加する機会をいただきました。

 古田さんといえば、史上初の選手によるストライキに発展した04年のプロ野球再編問題で、選手会会長として経営者側と真っ向から戦った人物。当時、シーズン中にもかかわらずオーナー陣との交渉に堂々と挑んでいた姿を覚えている人も多いのではないでしょうか。ファンサービスを重視する現在の流れも、この事件が1つのきっかけになったと言えると思います。

 そんな古田さんの新著は、昨年発売された『フルタの方程式』(捕手編)の第2弾ということなのですが、今回はバッティングの技術論が初心者にも分かりやすく解説されています。古田さんが言うには、現役時代も「バッティングは引退するまで毎日が試行錯誤」だったそうで、「最後まで結論は出なかった」といいます。

 つまりバッティングとは、プロで活躍する選手にとってもそれほど難しいということ。休日には草野球チームで汗を流す私も(まだ選手が9人そろっていないので練習ばかりですが)、この本を読んでもっと勉強したいと思います。

 ところで記者会見では、同日に行われたドラフト会議についても質問が飛びました。現場を離れて外からプロ野球を見る立場になった今、古田さんはドラフトをどう見たのか。すると、「やっぱりヤクルトに誰が入るのかに一番興味がある」との返事。「ひいきのチームを持たないと面白くない。どこかのチームや選手を応援するのが、正しい見方だと思う」

 ああ、やっぱり古田さんも私たちと同じ野球ファンの1人だったんだ、と妙に納得してしまいました。そしてそんなファンの気持ちを分かってくれる古田さんだからこそ、あれほど熱く日本プロ野球を守るために戦ってくれたのだと改めて感じることができました。

 会見後、会場となった三省堂書店神田店でサイン会が行われたのですが、雨にも関わらずたくさんの人たちが行列を作っていました。やはり古田ファン、野球ファンは今も健在のようです。

 取材を終えて帰ろうとしていた私の近くで、古田さんにサインをもらった1人の子供が母親の元に駆け寄って満面の笑みで報告していました。「『野球うまそうだな』って言われた!」。古田さん、日本の野球人気もまだまだ続きそうですよ。


――編集部・藤田岳人

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story