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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
カシミールの絶望
ほとんどメディアでも取り上げられることはないが、今、インド北部のジャム・カシミール州が大変な混乱に陥っている。
1947年にインドとパキスタンが分離独立してからずっと、両国はカシミール地方の領有をめぐって争ってきた。1989年にカシミールに駐留するインド部隊と、イスラム過激派や分離独立派が衝突、カシミールでは戦闘が激化した。近年、戦闘は落ち着いていたが、インド部隊はずっとカシミールに残っている。
そして今年。ことの発端は6月の反インド・デモだった。若者を中心にカシミール人が街頭に集まり、インド警察に対して投石を行った。それを鎮圧しようとした警察部隊が若者を殺害。さらに、その殺害に抗議するデモが発生して、17歳の少年がインド部隊の発砲した催涙弾によって死亡した。その写真を地元紙が掲載し、さらに大規模なデモが発生、収拾が付かなくなった。
インド政府は広がる混乱に7月、軍を派遣し、住民に外出禁止令を出す。外出できない人々の食料や医療品が底をつくのは当然で、必要に迫られて外出した少女が薬局の前でインド部隊に射殺される事件も発生した。
89年からずっとそうであったように、カシミール人がインド部隊の手で死傷させられても、誰もその責任を負わない。というより、責任を取る必要はない。なぜならインド部隊は、必要なら殺害もやむなし、と特別法で許されているからだ。
先日、外出禁止令は10月末まで延期され、怒れる市民は静まり返った街に出て抗議デモを散発的に行っている。
夏期州都スリナガルに住むある友人は「電話もインターネットもつながりにくい状態が続いている」と言う。「完全に無力だ。私たちは石を投げることしかできない......」
カシミールの苦しみはいつまで続くのだろうか。
――編集部・山田敏弘
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