- HOME
- コラム
- From the Newsroom
- コンゴの車椅子バンドを聴け!
コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
コンゴの車椅子バンドを聴け!
あまたのバンドがそうであるのと同じように、彼らも夢を抱いていた。あたためてきた曲をレコーディングし、デビューアルバムを引っさげて世界を熱狂させてやる。
ただ彼らがちょっとだけ違っていたのは、紛争に翻弄された国で生まれ、ポリオで下半身不随になり、ホームレスだったということ──。それだけだ。
コンゴ(旧ザイール)の車椅子ストリートバンド「スタッフ・ベンダ・ビリリ」がデビューしてヨーロッパツアーを果たすまでの5年間を追ったドキュメンタリー『ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡』が9月11日から公開される。
監督はフランス人映像作家のルノー・バレとフローラン・ドラテュライの2人。04年、コンゴの首都キンシャサの路上で偶然、ビリリの演奏を耳にしたのが始まりだ。車椅子に乗ったホームレスとストリートチルドレンが歌っていた。
俺はトンカラ(段ボール)の上で眠る
子供たちはトンカラの上で踊る
トンカラの上で夢を見る
俺はトンカラの上で生まれた
ルノーとフローランはすぐに、彼らのアルバム制作支援とドキュメンタリー撮影を決意した。思いがけない災難でメンバーが散り散りになったり、キンシャサ動物園での野外レコーディングがなかなかうまくいかなかったりと、山あり谷ありの5年間。でも見所は、希望を捨てないビリリのたくましさ、バンドのリーダー「パパ・リッキー」とストリートチルドレンの「親子愛」、そしてもちろん彼らの音楽だ。
あの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を思わずにはいられない。ビリリのサウンドにキューバのリズムが入っているのも、そう思わせる理由の一つだ。コンゴ民族音楽とキューバ音楽が融合した「コンゴリーズ・ルンバ」をベースに、ファンクやソウルのテイストがふりかけられている。切ない歌声を聞かせる曲もあれば、パワフルなボーカルとビートが爆発するナンバーも。
ストリートの日常をそのまま歌う歌詞は、変化球なしの直球勝負。上記の「段ボール」もそうだし「ポリオ」という曲も、ビリリじゃなきゃ書けないだろう。
俺は丈夫に生まれたが ポリオになっちまった
親たちよ 頼むから予防接種に行ってくれ
赤ん坊にワクチンを与えてやるんだ
親たちよ 頼むから子供を見捨てないでくれ
障害のある子供も ほかの子供たちとちっとも変わらない
『ブエナ・ビスタ』と大きく違うところは、バンドのメンバーひとりひとりの背景をあまり掘り下げていないところだろうか。彼らは何歳のときにポリオにかかったのだろう、紛争の時代をどう生きてきたのだろう、と物足りなさを感じてしまうかもしれない。だが監督のルノーとフローランが目指したのは「ビリリの曲に語らせる」ことだ。
「音楽を聴くことで伝わるものは多い。説明しすぎるのは避けたかったし、同情を誘うような映画にはしたくなかった。それに彼らの頭の中では、障害者であるということは障害ではない」
パパ・リッキーたちは最初から言っていた。「今に見てろ、世界一有名なバンドになってやる」。それは決して虚勢ではなく、確信のように聞こえた。「キンシャサの厳しい環境では、その真逆にあるような夢を描かなければ生きていけない。希望がなければ狂人になるか死んでいくしかないんだ」と、ルノーは言う。嘆いていては生きていけない、泣いている暇はないのだ。
段ボールで寝てた俺が マットレスを買った
同じことが起こりうる お前にも 彼らにも
人間に再起不能はない 幸運は突然 訪れる
人生に遅すぎることは 絶対にない>
だから、スタッフ・ベンダ・ビリリはどんな不運に襲われても絶対にあきらめない。何が起きても動じない。パパ・リッキーたちには、どんと構えた格好良さがある。
初のヨーロッパツアーのときだって、「当然のこと」と、プレッシャーを感じてる様子はまったくなかったそうだ。ルノーとフローランがこっそり教えてくれた。2人のほうが「リハのときみたいに歌詞を間違えたらどうすんだ」などとハラハラしてたらしい。でもパパ・リッキーたちはウイスキーをラッパ飲みして「俺たちやってやるぜ!」の勢いだったとか。そしてステージに上がると、その圧倒的なエネルギーで一瞬にして観衆をとりこにしちまった。
カッコ良すぎですよ、ベンダ・ビリリ兄さん。
*「スタッフ・ベンダ・ビリリ」来日公演やります(9~10月)。
http://bendabilili.jp/concert.html
──編集部・中村美鈴
この筆者のコラム
COVID-19を正しく恐れるために 2020.06.24
【探しています】山本太郎の出発点「メロリンQ」で「総理を目指す」写真 2019.11.02
戦前は「朝鮮人好き」だった日本が「嫌韓」になった理由 2019.10.09
ニューズウィーク日本版は、編集記者・編集者を募集します 2019.06.20
ニューズウィーク日本版はなぜ、「百田尚樹現象」を特集したのか 2019.05.31
【最新号】望月優大さん長編ルポ――「日本に生きる『移民』のリアル」 2018.12.06
売国奴と罵られる「激辛トウガラシ」の苦難 2014.12.02