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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
話題作『ノルウェイの森』は観たくない
開催中のベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品している『ノルウェイの森』の評判がいいようだ。日本で報じられているように「大絶賛」かどうかは微妙だが、重いテーマを扱いながら、その映像の美しさに引き込まれるという声が多いように思う。
トラン・アン・ユン監督が村上春樹の『ノルウェイの森』を撮ると知った時には、「かなり期待できそう」と思った。ベトナム系フランス人のトランは私の大好きな監督。『青いパパイヤの香り』(93年)はこれまでのベスト10に入れてもいいくらいの作品だし、ベネチアで金獅子賞を取った『シクロ』(95年)もトニー・レオンのよさを憎いくらい引き出していた。レディオヘッドの「Creep』を聴くと今でも、レオンがナイトクラブで罪悪感にさいなまれるシーンが頭に浮かぶ。音楽、映像、俳優すべてが完璧なシーン!
トランが『ノルウェイ』でも、その詩的で心に響く映像と物語の作り手として称賛されるのは、まあ当然だろう。
しかし、直子を演じるのが菊地凛子なのにはかなりがっかりした(相手役の松山ケンイチはいいとして)。
菊地がアカデミー賞助演女優賞にノミネートされて注目を集めたのは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』(06年)。これで「国際派女優」の看板が付くようになったが、個人的には、菊地の存在があの作品をだめにしていると思った。
とにかく、高校生くらいの年頃の女の子からにじみ出てくるみずみずしさ、危うさのようなものが感じられない。「外国人は日本人ほど、俳優の年齢と役の年齢の違いを気にしない」という話は聞くが、それにしても無理がありすぎて、ノーパンで下半身を広げてみせるシーンもなんとなく汚らしく見えただけ。私は試写室で観たが、ラストシーン、全裸になった菊地のしぼんだおっぱいが映った瞬間に「ああ、この映画はだめだ」と感じてしまった。
案の定、『バベル』は話題になった割には興行的にも賞レースでもいまいちだった。厳密に言えば、菊地の存在があの作品のだめさ加減を象徴していた、と言ったほうがいいかもしれないが。
吉永小百合が30代の母親役を演じても、寺島しのぶが野心(&色気)ムンムンで体当たりの演技をしても、同じような違和感を覚えないのはなぜだろう。個人の生理的感覚という一言では片付けられないような気がするので、誰か同じように感じている人がいたら教えてほしい。
『ノルウェイ』の直子も、精神のバランスを崩していく難しいクセのある役どころだ。菊地が『バベル』で演じたろうあの高校生にも通じるものがあるから、本当に不安だ。日本では12月公開。すごく観たいが、すごく観たくない......。
――編集部・大橋希
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