コラム

アフガン戦争「機密流出」、アフパックの反応

2010年07月29日(木)20時10分

 民間ウェブサイト「ウィキリークス」によって、アフガニスタンでの戦争に関する約9万2000点にも及ぶ機密文書が公表され、物議をかもしている。

 本紙ワシントン支局のジョン・バリー記者の見解では「大した発見は見当たらない」ようだ。米政府にしてみれば、政権そのものやアフパック(アフガニスタンとパキスタンを合わせた地域を指す)政策に直接的なダメージはないと見ているようだ。ただアフガン戦争のあり方と撤退計画について、改めて公に議論する機会にはなるだろう。

 では当事国にとってはどうだろうか。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は首都カブールで記者会見を開き、今回の公表は「非常に無責任でショッキングだ」と語った。アフガニスタンにとって最大の懸念は、文書のあちこちに米軍に情報提供をしたアフガニスタン人の名前が記されていることだ。英タイムズ紙は、2時間ほど文書に目を通しただけでたくさんの名前を見つけた、と報じている。「ウィキリークス」のサイトから機密文書を誰でもダウンロードできる今、これらアフガン人協力者は生きた心地がしないだろう。カルザイも「彼らの命が危険にさらされる。これは深刻な問題だ」と激しく非難した。

 パキスタンはどうか。文書では少なくとも04年以降、パキスタン軍の諜報機関である統合情報局(ISI)がタリバンに武器を提供したり物資の支援をし、訓練も行なっていたと暴露している。これは新しい情報ではないが、文書には少なくとも親密さを示す180もの報告が含まれていて、これまでの認識を裏付けたといえる。

 また文書には何度もISIのハミド・グル元局長の名前が登場する。グルが局長だった87年から89年の間、パキスタンもアメリカも、アフガニスタンでソ連と戦う聖戦士を支援していた。文書では、グルが06年12月にカブールで攻撃を実行するために3人の男を送り込んだと暴露されている。ただ彼のキャリアを考えれば、聖戦士との関係は何ら不思議な話ではない。

 ただ本紙の記事には以下のような話もある。


09年1月の会議について書かれた文書には、パキスタン軍統合情報局(ISI)のハミド・グル元局長がアフガニスタン領内におけるアルカイダの自爆テロ計画に手を貸したらしいとの話が出てくる。

 こうした疑惑に対し、グルは「作り話だ」と一蹴している。

 パキスタンに関する文書には看過できない重大な話もある。ISIが08年3月、現在アフガニスタンの戦争で米軍などに攻撃をしかける主要勢力、ハッカニ・ネットワークのシラジュディン・ハッカニに、アフガニスタンで道路工事に従事していたインド人を殺害するよう命じたという。またシラジュディンの父親で「自爆テロの生みの親」ともいわれるジャラルディン・ハッカニ(現在は病床にあるといわれる)には、アフガニスタンでの自爆テロに使うようにと07年3月に1000台のオートバイを提供したという。

 要するにISIは、アメリカから年間15億ドルの資金援助を受け取りながら、アメリカが戦う過激派にさまざま援助を行なっている。ISIはすぐにタリバンとの親密な関係について否定し、疑惑は「悪意があり、根も葉もない」とした。

 ただ今回の機密文書流出ではっきりしたことがある。これまでも言われてきたことだが、アメリカがアフガニスタンでの戦争を終わらせるには、パキスタンにあるテロリストの聖域を潰すことが不可欠だということだ。それにはパキスタンがまず、過激派との関係を断たなければいけない。アメリカがそれをできないなら、一刻も早くアフガニスタンから撤退すべきだろう。

 これからイラクに関する機密情報が同様に公表される予定だとの話もあり、今回の騒動はまだまだ大きくなる可能性がある。

――編集部・山田敏弘

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story