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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
吉田都と「バレエ王子」ツァオ・チー
英ロイヤル・バレエ団でプリンシパル(最高位のダンサー)を務めた吉田都(44)が6月の日本公演(『ロミオとジュリエット』)を最後に、同バレエ団を引退した。
フリーとして現役を続行するようだが、今後日本に拠点を移してどんな活動をしていくのか楽しみだ。世界で活躍するバレエダンサーの中心は20代で、30代には引退するケースが多く、吉田の44歳という年齢だけを考えればもう最盛期は過ぎていると言っていい。それでも彼女の踊りを観たいというファンはまだまだたくさんいるし、後進を育てるという意味でも大きな役割があるだろう。
彼女の安定した足さばき、美しいピルエット(回転)は本当に見事なのだ。
少し前になるが、吉田の4月の引退公演『シンデレラ』について4月27日付け英タイムズ紙が公演評を書いている。「バレエファンにとって、素晴らしい新人の登場ほどわくわくすることはない。そして、愛するスターに別れを告げることほど心に迫るものはない」という書き出しで、「95年にロイヤル・バレエ団に加わった彼女は、私たちの心の中に特別な場所を刻み込んだ。それも、華々しい仲間たちのようにあからさまな自己宣伝をすることなく」と、彼女の控えめだが確かな実力を称賛。「彼女の踊りは相変わらず華麗で、楽しくて、最高レベルのテクニックを保つという厳しさとは反対に、楽々と流れるように続いていく」と評した。
ダンサーの「引き際」の難しさについては、昨年、60歳を過ぎても踊り続ける森下洋子の舞台を見て考えさせられた。いくら努力しても、20代と60代が体力的に同じでいられるはずはなく、その分をオーラや表現力でカバーしているのだが、どうしてもかつて人気だったバンドの再結成コンサートにあるような「実力よりもネームバリュー」感が漂う。特に森下の夫であり、主役を張る清水哲太郎(62)の姿には、「彼に代われるダンサーはいっぱいいるだろうに」と思ってしまった(松山バレエ団の森下の公演には、夫の清水がもれなく付いてくる、という感じ)。
そう、若くて素敵なダンサーはいっぱいる。例えば8月公開の映画『小さな村の小さなダンサー』で主演を務めたツァオ・チー。現在、英バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のプリンシパルだ(映画の宣伝では「中国のバレエ王子」と称している模様)。
映画は、81年に中国からアメリカに亡命した名ダンサー、リー・ツンシンの著著『小さな村の小さなダンサー』(旧タイトル『毛沢東のバレエダンサー』、徳間書店)が原作で、時代に翻弄されるダンサーの実話が感動的な物語に作り上げられている。映画初出演のツァオだが、バレエシーンはもちろん演技もなかなかの力を見せている。
先日、ツァオにインタビューしたところ、「日本のバレエでは小さな頃から『踊る』けれど、中国では最初の2年間くらいはストレッチや体力づくりばかり。かなり退屈なんだけど」と語っていたのが印象的だった。なんとなく中国らしいというか......。
ちなみにバーミンガム・ロイヤル・バレエ団は吉田がロイヤル・バレエに移る前に在籍し、芸術監督ピーター・ライトの下、その名前を知られていったバレエ団だ(両者は王立のきょうだいバレエ団)。吉田とツァオはかなり親交があるらしい。
――編集部・大橋希
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