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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
財政赤字削減は「アメリカン・アイドル」方式で
ギリシャ危機をきっかけに、巨額の財政赤字をかかえた国の話題が連日のように伝えられている。第2のギリシャといわれるポルトガルやスペイン、過去最大の財政赤字を解消するために緊縮財政を掲げる保守党が政権を取ったイギリス、国庫の「借金」が税収を上回る日本・・・。実際、ほとんどすべての先進国が、程度の差こそあれ、ギリシャと似たり寄ったりの危うい財政事情をかかえているというから、これはまさに一人ひとりの生活にも直結する重要なテーマだ。
でも、経済用語のオンパレードに拒絶反応を感じたり、自分の力ではどうしようもないとあきらめモードに陥る人は少なくないはず。そんな人たちにも国の財政問題を身近に感じてもらうため(そして、厳しい懐事情を理解して、増税や社会福祉削減を受け入れてもらうため)、アメリカで市民参加型の「仕分け」サイトが立ちあがった。
これは、共和党の下院議員エリック・カンターが先週立ち上げたウェブサイト「ユーカット(YouCut)」。毎週、「仕分け候補」として5つの項目がリストアップされており、廃止・削減すべきだと思うものにウェブや携帯電話で投票できる。視聴者の投票で優勝者を決めるオーディション番組「アメリカン・アイドル」のノリだ。
第1週目の仕分け候補の一つは、大統領選候補への助成金2億6000万ドル。「候補者は自身で多額の寄付を集めており、公費による助成は不要」という主張に賛同するなら、「投票」をクリック。最も多くの票を集めた項目の廃止を、法案として議会に提出するという。
「国民を巻き込むことで、ワシントンの無駄遣いカルチャーを変える」というカンターの意気込みは評価していいと思うし、こんな直接的な政治参加が可能なのはいかにもアメリカらしい。
もっとも、民主党からは、11月の中間選挙に向けた売名行為だとの非難が続出。さらに、味方であるはずの共和党支持者からも、冷やかな声が漏れ聞こえてくる。最大の理由は、1兆4000億ドルという巨額の財政赤字(09年)に比べて、仕分けによる削減効果があまりに小さいこと。共和党寄りのシンクタンク、ケイトー研究所のクリス・エドワーズは、次のように指摘している。
「仕分け候補となっている項目の年間の削減額は平均わずか6億3800万ドル。連邦政府支出の0.017%でしかない。別の言い方をすれば、連邦政府支出5800ドルに対して、1ドル節約できるだけ。(中略) これでは、エンパイア・ステートビルが燃え盛っているときに、水鉄砲をもった幼児に消火活動をさせるようなものだ」
それでも、ユーカットの立ち上げから数日で30万人近くが投票したというから、「国民の当事者意識を高めるという意味では「アメリカン・アイドル」方式はアタリなのかもしれない。少なくとも、仕分けを担当する政治家の言葉尻をとらえては外野から文句を言うだけの、どこかの国の有権者よりはずっとましだと思う。
──編集部・井口景子
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