コラム

へその緒は「詐欺」のビジネス?

2010年03月06日(土)11時00分

 ニューズウィーク日本版ムック『0歳からの教育』に、民間の臍帯血(さいたいけつ)バンクについて取り上げた「へその緒は奇跡のビジネス?」という記事がある。

 臍帯血とは、へその緒と胎盤にある血液。血液を作る造血幹細胞がたくさん含まれていて、これを移植することで白血病などを治療できる。出産のときに臍帯血を採取し、凍結保存しておく機関が臍帯血バンクだ。公的なネットワーク(骨髄バンクのようなもの)と私的保存を請け負う民間会社がある。

 記事を書いたメアリー・カーマイケルは当時妊娠中で、病院や育児雑誌で民間臍帯血バンクの広告をよく見かけ、「子供のために保存すべきか?」と考えていたそうだ。でも取材の結果、民間バンクを使うことの有用性を疑う専門家が多いこと、その技術的信頼性をいま一つと感じたことから、彼女自身は利用しないという結論を出した。

 実は私も同じころ妊娠中で、病院から民間バンクのパンフレットをもらっていた。10年前の出産のときにそんな情報はなかったから、科学の進歩を享受できるのなら......と検討はしたが、数十万に上る保管料を考えてやめてしまった。

 正しい選択だったのか? と思わなくもなかったが、カーマイケルが最近書いた記事を読むと、やめて正解だったようだ。記事によると、スタンフォード大学のアービング・ワイズマン教授がアメリカ科学新興協会の年次総会(2月17~21日)で、民間バンクの詐欺的行為は「不適切」であり、可能性のない「セラピー」のために人々から多額の金を巻き上げていると激しく非難したという。

 もともと科学者や専門家の間では、民間バンクのやり方に疑問を投げかける声は多い(営利事業であり、保管方法もきちんとしていないなど)。また、実際には臍帯血を保存しておいたところで治療に必要な量の幹細胞が含まれていないとか、公的バンクを使って他人の臍帯血を移植したほうが治療効果の高いことがあるようだ。全米小児科学会なども臍帯血バンクを批判しているが、ワイズマンほど強烈な発言は珍しい。

 臍帯血が出産時にしか採取できない貴重なものであることは確かだ。気になる人は、公的な臍帯血バンクを利用することをお勧めする。この記事を書くために調べて初めて、私がパンフレットをもらった「つくばブレーンズ」という会社が昨年10月に破産したことを知った。やっぱりやめて正解だった......。

――編集部・大橋希

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-台湾、米関税対応で27億米ドルの支援策 貿易

ビジネス

米雇用統計、3月雇用者数22.8万人増で予想大幅に

ビジネス

中国が報復措置、全ての米国製品に34%の追加関税 

ビジネス

世界食料価格、3月前年比+6.9% 植物油が大幅上
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 8
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 9
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 10
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story