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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
キャメロン監督が描く「ヒロシマ」とは
『タイタニック』と『アバター』の2本の映画で共に世界の興行収益記録を塗り替えるという、前人未到の偉業を成し遂げたジェームズ・キャメロン監督。そのキャメロンが、今度は広島と長崎の原爆を映画化しようとしている。
今年1月19日にアメリカで発売されたノンフィクション『ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ(チャールズ・ペレグリーノ著)』を映画化する権利を、キャメロンが購入したことが報じられた。この本は1945年の8月に広島と長崎で2つの原爆を「二重被爆」した山口彊(つとむ)さんを軸に、被爆の惨状を描いたものだ。
三菱重工長崎造船所の設計技師だった山口さんは、6日に広島の爆心地から約3キロの地点で被爆し、上半身に重症の火傷を負った。妻子のもとに戻るために8日に列車で長崎に帰り、翌日の9日に爆心地から約3キロで被爆した。
この本の出版を待たずに、山口さんは今年1月6日に93歳で長崎市の病院で亡くなった。キャメロンは『アバター』の宣伝で日本を訪れていた昨年12月22日に、本の著者ペリグリーノと共に胃がんで病床にあった山口さんを見舞い、山口さんが味わった「苦痛を未来の世代に伝える」気持ちを表したという。
これまでにも核兵器の爆発を描いたアメリカの映画はあった。2002年に公開されたベン・アフレック主演の『トータル・フィアーズ』は、スーパーボウル開催中の東部バルチモアのスタジアムでテロが持ち込んだ核兵器が爆発する設定だ。最近ではアメリカで2007年に放映された『24-TWENTY FOUR-』の第6シーズンでも小型核爆弾によるテロが発生している。ただ、いずれも核兵器を「巨大な爆弾」と捉えて、爆風の被害しか描いてはいない。
広島と長崎の原爆被害の残虐さは、爆風だけではない。一般市民が熱線で焼かれ、大量の放射線を浴びせられたことにある。そして真っ先に爆心地に入って援護活動に従事した人たちも「入市被爆」し、亡くなったことにある。
キャメロンは果たして爆心地のその惨状を映像化できるのだろうか。もし仮に実現したとしても、原爆投下が第2次大戦の終結を早めて米兵の犠牲を少なくさせた、という見方が根強く支持されているアメリカでは、多くの映画館で公開できなくなるのではないか。批判を浴びることも想像に難くない。
ただ死の淵にあった山口さん本人に面会したことからも、キャメロンの「本気度」はうかがえる。映画監督として未知の領域に到達した今、キャメロンに残されたのは歴史にどう名を刻めるかだけなのかもしれない。
――編集部・知久敏之
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