コラム

ロシアW杯を見なかったカタルーニャ人が抱くW杯出場の夢

2018年08月30日(木)18時30分

Photograph by Toru Morimoto

<バルサに熱狂するサッカー好きのカタルーニャ人は、なぜワールドカップを見なかったのか>

「ゴール、ゴル、ゴル、ゴル、ゴール!!」

テレビやラジオからの雄叫びが響く。8月中旬、スペイン国内サッカーリーグ、リーガ・エスパニョーラが開幕した。

メッシ率いる昨シーズンの優勝チームFCバルセロナ(通称バルサ)がいきなり2連勝し、盛り上がりを見せるバルセロナ。リーガが終わる来年5月まで、カタルーニャの首都バルセロナではバルサの試合が最大の人気エンターテインメントとなる。

ところで、日本が湧いたロシア・ワールドカップ(W杯)は、カタルーニャでは盛り上がらず、あっけなく過ぎ去った。

決勝トーナメントは6月30日から始まったが、7月の視聴率調査によると、スペイン全土では7月に最も視聴された番組トップ20は全てW杯の試合だったが、カタルーニャだけで見ると、最も視聴された番組トップ20のうち12番組がカタルーニャテレビ局の番組、つまりW杯以外の番組だった。カタルーニャでは、W杯に対する関心がスペインに比べてとても低いことが分かる。

とはいえ、カタルーニャでもW杯を見ないわけではなく、放送された試合のうち上位の視聴率を記録した番組もある。W杯をテレビ観戦した人たちを大きく分けると3つのグループに分けられるようだ。

①スペインを応援する人
②スペインに負けてほしいアンチ・スペインの人
③自国(出身国)を応援する移民とツーリスト

これらの人々の関心が重なりあう試合のみが、視聴率がグッと伸びる。

①と②が重なった例:
スペインがベスト8進出をかけた決勝トーナメント1回戦の対ロシア戦(7月1日)。結果はPKでスペイン敗退。スペインではもちろん、カタルーニャでも、7月に最も視聴された番組となった。

①と③が重なった例:
1次リーグのスペイン対モロッコ戦(6月25日)。カタルーニャのモロッコ系移民は20万人以上で、出身国ごとの移民人口では桁違いで最も多く、全移民の約20%をモロッコ系が占める。カタルーニャで6月に最も視聴された番組。

ちなみに、世界中が1次リーグの中で最も楽しみな試合に選んでいたスペイン対ポルトガル戦(6月15日)は、スペインの第1戦であり、金曜の夜20時のプライムタイムだったにもかかわらず、カタルーニャでの6月視聴率番組トップ10にも入っていない。

カタルーニャでバルまで行ってW杯のテレビ放送にかじりついているのは、自国が出場している海外からの移民かツーリストがほとんどだ。

私がカタルーニャに移住して初めてのW杯であった2006年ドイツ大会のときは、日本対ブラジル戦を近所のバルで地元の人たちと観戦しようと足を運んだが、客はまばらだった。そのため、たまたま居合わせたサムライ・ブルーのユニフォームを着込んだ日本人ツーリスト2人と、人気のないテレビの最前列席で一緒に観戦することに。リーガではいつも大盛況のバルなのに、そのとき盛り上がっていたのは私たちだけだった。

結局、多くのカタルーニャの人にとっては、いつのW杯も「自国代表」が出場していないのだ。日本代表がピッチにいないW杯は、日本でも盛り上がらないだろう。それと同じなのだ。

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story