コラム

吉野家「外国籍」騒動の根深さ

2022年05月23日(月)14時30分
吉野家

Yuriko Nakao-REUTERS

<問題は「実は日本国籍なのに、本人確認がなく、外国籍だと誤認された」ことだけなのか。根本的な問題は他にもある>

一人の大学生のツイッター投稿から、牛丼チェーンの吉野家が国籍を理由に新卒採用説明会の参加を断っていたことが分かった。

吉野家は昨年から「外国籍と思われる学生」の参加を断っており、過去に内定した外国籍の学生が就労ビザを取得できなかった事例をその理由としている。

私が違和感を持ったのは、今回参加を拒否された学生が「実は日本国籍であるのに外国籍だと吉野家に誤認された」点にフォーカスした報道が多かったことだ。吉野家も各社の取材に「本来あるべき本人確認の手続き」がなかった、「説明と確認が不足し、誠に申し訳ない」と応えている。

だが、考えるべきポイントは本当にそこ(だけ)なのだろうか。

もちろん国籍の誤認という問題はある。

吉野家は「氏名、住所、学校などの情報から総合的に判断」としているが、本人に聞かずに「日本人かどうか」を安易に決め付ければ誤りがあって当然だし、そもそも名前や住所から国籍を推定しても問題ないという姿勢自体がどうかとも思う。

同時に、外国籍の採用候補者を一律に排除するということをしていなければ、今回のような事態には初めからなっていないという点も見逃せない。

国籍の誤認が意味を持つ前提に、国籍による選別がある。より根本的な問題は後者ではないか。

外国籍者の就労についての理解も乱暴だ。

同じ外国籍者と言ってもさまざまな在留資格があり、永住者など就労に制限のない在留資格を持っている場合には、内定後に就労ビザが取得できずに云々(うんぬん)という事態など起こり得ない。

それにもかかわらず、単に外国籍だからという理由で説明会すら参加させないのはどうか。そこにある差別性は明らかだろう。

また、留学生など内定後に就労ビザが必要な在留資格だとしても、それだけで排除の正当な理由にはならない。ましてや吉野家はホームページで「外国籍社員の積極的な登用」をアピールしている企業だ。

「現地採用や国内留学生の採用と合わせて、20名以上の外国籍社員が働いています」。これを読み、まさか自分が国籍を理由に説明会にすら参加できないと思う留学生はいないだろう。

そして、ここにはもう一つ別の論点もある。それは、各地の吉野家の店舗では、留学生など「20人」よりもっと多くの外国籍者がアルバイトとして働いているだろうということだ。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story