コラム

泥沼化する米中貿易戦争とファーウェイ「村八分」指令

2019年06月24日(月)17時00分

自分たちをこのようなジレンマに陥れるトランプの「村八分」指令は早くやめてほしい、と日本企業のみならずファーウェイと取引のあるすべての企業が切望していることであろう。
泥沼化した米中貿易戦争にはなかなか解決の糸口が見えないし、中国の新聞では次なる報復手段としてレアアースの対米輸出制限も取り沙汰されている。しかし、レアアースの輸出制限については中国はすでにWTOのパネルでGATT違反との裁定を受けており、それを再び持ち出すのは大いに顰蹙を買うことであろう。

私は現下の情勢のもとでは、中国が関税合戦については白旗をあげ、報復関税をやめるのが中国にとって得策ではないかと考えている。中国がアメリカに報復関税をかけたのはトランプ大統領の支持率を下げることを通じてアメリカにゆさぶりをかけることが狙いであろうが、そうした効果は全く現れておらず、むしろトランプ大統領は中国との貿易戦争が続いてくれた方が自分の再選に有利だと考えているようである。

かつての円高圧力ほどではないが

中国が関税を上乗せしているアメリカからの輸入品には植物油の原料となる大豆や肉など国民の台所に関わるものが多く、報復にアメリカを動かす効果がないのであれば、ただ戦っている姿勢を見せるだけのために国民の生活を圧迫していることになる。幸いにして習近平主席は次の選挙のことを気にする必要がないのであれば、国民のために報復関税をやめたらいいのでないだろうか。

1980年代の日米貿易摩擦の際にはアメリカがこんな広範囲に制裁関税を課すことはなかったが、その代わり日本には円高という大きなプレッシャーが加えられた。特に1985年のプラザ合意以降、翌年までに円はドルに対して4割も上昇し、88年には9割も上昇している。日本が経験してきた円高という試練に比べれば25%の関税上乗せというのは実はそれほど大した圧力ではない。

むしろ早急に解決したいのはファーウェイやZTEなど個別の企業に対する禁輸の問題である。ハイテク製品はアメリカ、中国、日本、韓国などにまたがる国際的なサプライチェーンのなかで作られている。そこへ禁輸という刃を振り下ろすと、中国企業だけでなく、アメリカ企業、日本企業、韓国企業などの血も流れることになる。中国政府には報復関税の引き下げと引き換えにまずはファーウェイ、ZTEに対する禁輸の解除を勝ち取ってもらいたい。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story