コラム

シャープのV字回復は本物か? IoT企業への変革は成功するか?

2017年05月16日(火)16時34分

千葉の幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2016でのシャープのブース Toru Hanai-REUTERS

<台湾の鴻海(ホンハイ)による出資完了からわずか9カ月で、シャープが黒字転換した。守りから攻めへとシフトし、家電メーカーから「人に寄り添う」IoT企業への業態変革を掲げるが......>

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下で再建を進めてきたシャープは、2017年3月期に連結営業損益を3年ぶりに黒字転換させた。経営危機以降減少を続けていた売上高も2017年1-3月期では前年同期比7.9%の増収に転じた。四半期ベースで前年同期を上回るのは2014年第1四半期以来、11四半期ぶりだ。

シャープでは早期黒字化に向けた3つの構造改革として、経営資源の最適化、責任ある事業推進体制、成果に報いる人事制度を実行してきたが、早くもその成果が決算にも表れた格好だ。

ホンハイによる総額3888億円の出資が完了したタイミングである2016年8月を起点とすると、わずか9カ月での営業損益のV字回復。同社では今期の最終損益の黒字化も照準に入ったとしており、今後は守りの戦略から攻めの戦略や事業拡大の戦略へと大きくシフトすることを明言している。

その戦略の中核は、今回の決算資料のなかにも盛り込まれた「新生シャープの方向性」=家電メーカーから「人に寄り添う」IoT企業への業態変革である。

2017年3月期決算は経費削減やコストダウン等の構造改革で営業損益を黒字化させたシャープではあるが、今期以降は上記の業態改革を推し進め、売上や利益を増大させ、真のV字回復の経営が実現できるかということが求められてくる。

本稿では、シャープがすでに決算発表や中期経営計画発表にも先行して進めている「人に寄り添う」IoT企業としての業態変革の内容を概観するとともに、その成否についてストラテジー&マーケティングの観点から考察してみたい。

【参考記事】シャープ買収で電子立国ニッポンは終わるのか

目指すビジョンを「AIoT」と命名して商品を続々投入

シャープでは、「人に寄り添う」IoT企業というポジショニングを発表すると同時に、「シャープが目指すビジョン」として、その中核的技術を「AIoT」(=AI×IoT)と命名している。また「人に寄り添う」ことを目指したAIを「ココロエンジン」と命名して、すでに家電製品に続々と搭載している。

「使う人の気持ちに応えるスマホの究極の形:ココロ動く、電話。RoboHoN(ロボホン)」、「音声対話で何を作るか相談してすぐに調理できる:クッキングパートナー HEALSIO(ヘルシオ)」などが、シャープがすでに発売しているIoT家電の事例である。

家電やIT機器を単なる「道具」から人が愛着を感じられる「パートナー」へと変えていきたい。そんな想いを忠実に製品化しようとしているのが現在開発中の「ホームアシスタント」である。「つぶらな瞳」をもった小型ロボットのようないでたちで、赤外線通信によって他社の家電ともつながるという。

「家の真ん中で音声でいろいろな家電を連携させる家電の新しいカタチ:ホームアシスタント」と打ち出し、ユーザーがロボットと"自然に"対話するだけで、自宅にある家電がスマートに連携し、快適な住空間を作り上げてくれることを目指している。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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